あなたはどう考える? 賛否渦巻くカジノ「ギャンブル否定論は今さら感」 根強い依存症懸念に疑問
大阪府が国に申請したカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の整備計画の認定から3カ月余りが経過した。この間、次のステップである、府側と事業者が開業までの手続きを決める実施協定の締結には至っていない。それどころか吉村洋文知事(日本維新の会共同代表)は18日、政府の認定遅れに伴い、想定していた令和11年開業は困難との認識を示した。
人工島・夢洲(ゆめしま)(大阪市此花区)のIR用地は土壌汚染や軟弱地盤の液状化リスクを抱え、整備計画認定後にあっても事業者との協議が難航している感は否めない。カジノ反対論もなお根強い。そもそも、なぜ大阪府市はIR誘致に乗り出したのか。
大阪IR誘致構想の原型は、平成20年に就任した橋下徹知事が打ち出した。22年にシンガポールで開業を控えていたカジノを視察した橋下氏は、民間企業が投資・開設するカジノ中心のリゾート施設を起爆剤として海外から観光客を呼び込もうとした。関西活性化による東京一極集中打破という狙いがあり、こうした考えは橋下氏とともに維新を創設し、今春政界を引退した松井一郎氏を経て、吉村氏に引き継がれている。
賭博罪がある日本でIRを実現するには、カジノを合法化する必要がある。国政では24年末に第2次安倍晋三政権が誕生。橋下、松井両氏と良好な関係にあった安倍氏は首相在任中、人口減少時代の成長戦略の柱としてIR推進を掲げ、カジノを合法化するIR整備法を30年に成立させた。
国内のカジノは、政府のカジノ管理委員会による規制下で運営される。大阪の場合、ルーレットなどディーラー付きのゲームができるテーブル約470台とスロットマシンなど約6400台を設置する「ゲーミング区域」は2万3千平方メートル余り(暫定)。IRの総床面積約77万平方メートル(同)の3%に満たず、大半はカジノ以外の施設が占める。
具体的には企業の会議や研修旅行のほか、首脳級の国際会議、大型展示会にも対応できるMICE(マイス)施設、国内有数規模の宿泊施設(客室約2500室)、日本古来の華道と茶道、香道の「三道」を体験できる展示場などを整備するという。
ただ、こうした施設は採算の見通しが立ちにくく、カジノを「収益面の原動力」とするのが国の基本方針だ。カジノ抜きの開業は想定していないといえる。実際、大阪IRの計画では年間売上額約5200億円の約8割をカジノのゲーミングと推計している。
反対派は、ギャンブル依存症の拡大に強い懸念を示す。これを受け、カジノ入場時はマイナンバーカードによる本人確認や日本人のみを対象にした1回6千円の入場料徴収といった対策を講じる。カジノ収益の一部が依存症対策にあてられるほか、大阪府市は相談から治療まで対応する支援センターを設置する。
カジノの是非について、記者同士で議論したところ「カジノができて新たに依存症になる人がどれだけいるか。依存症になる人は別のギャンブルにすでにはまっている。ギャンブル否定論は今さら感が強い」という指摘があった。「カジノは富裕層を顧客とし、ギャンブルで身を持ち崩す人を想定していないだろう」との意見も出た。
日本は競馬や競輪、競艇などの公営ギャンブルやパチンコ・スロットに興じる人が多い一方、これまで依存症の問題に正面から向き合ってこなかった。依存症者の家族らがカジノに不安や懸念を抱くのは当然であり、対策は必要だ。
しかしこれだけ公営ギャンブルなどが定着している中で、忌避感に基づく批判がカジノに集中する現状に違和感を覚える。「カジノ誘致を許すな」との声は大きいが、パチンコ廃止運動の話は聞いたことがない。
新型コロナウイルス禍を経て、各地がポストコロナの観光のあり方を模索している。カジノを起爆剤とした観光振興は時代錯誤か否か。読者の皆さんのご意見をうかがいたい。(大阪社会部次長 清宮真一)