■「ミュンヘン/Munich」(2005年・アメリカ)
監督=スティーブン・スピルバーグ
主演=エリック・バナ ダニエル・クレイグ ジェフリー・ラッシュ
ミュンヘン五輪で起ったイスラエル選手殺害事件に対して、イスラエル政府が選んだ措置は”復讐”。事件に関わった11名のアラブ人を暗殺するために、選ばれた主人公と4人の協力者。彼らの実話を基にスピルバーグは見事な力作を完成させた。従来のファンが期待するスピルバーグ印のファンタジー/エンタメ路線とは一線を画した、「シンドラーのリスト」や「プライベート・ライアン」路線のスピルバーグのアザーサイド。
スピルバーグが訴えたかったのは、「報復」も所詮殺人に他ならないし、復讐は復讐しか呼ばない、ということ。既に多くの人々が語り、訴えてきたことだが、人類はそれでも「報復」という名の殺人を犯し続けている。自身がユダヤ人でありながらスピルバーグは、イスラエル政府がミュンヘン事件に対し「報復」を選んだこと、ユダヤ人の厳しい歴史があるから今度は強い態度に出てよいとする考え方に、疑問を投げかける。これは勇気がいることだろうし、実際に批判も多かろう。でも敢えてスピルバーグがそれを選んだ。わかりきっているのに、誰もそれを止めようとしないから。ラストシーンにニューヨークを選んだのも、「報復」の意味を世界に示したいからに違いない。
この映画の主人公たち暗殺グループは実際のところ経験もない。携帯もPCもない時代だから、スパイ映画のようにうまく事は運ばない。自分の身が危険になることもあれば、罪がない人を巻き添えにしそうにもなる。その頼りなさに僕ら観客はハラハラする。スピルバーグ映画に残酷な場面はこれまでも少なくなかった。今回も多々出てくるのだが、仲間を殺された「報復」で女性を殺す場面など特に生々しい。そうした”殺人”を重ねるうちに主人公たちは、狙われる側になり、仲間は次々と殺される。主人公も精神的に追いつめられてベッドで落ち着いて眠ることすらできなくなるし、愛する妻とセックスしても回想や妄想が彼を苦しめる。人を殺すことは、自分という人間をも破壊してしまう。ミュンヘン事件の妄想の中には、主人公もその場に現れる。殺すも復讐するも同じ”殺人”。
誠実そうなエリック・バナのイメージがあるので、苦悩する姿が見ていて痛い。マチュー・カソビッツや新JBのダニエル・クレイグなど、協力者の4人や情報提供者のフランス人たちも個性的なキャラそろい。特にフランスの”パパ”に(後醍醐天皇顔の)ミシェル・ロンスデールを起用してくれたのは実に嬉しい!。そして何よりも感じたのは、我々はもっと現代史を学ばなければならないということだ。
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