■「硫黄島からの手紙/Letters From Iwo Jima」(2006年・アメリカ)
監督=クリント・イーストウッド
主演=渡辺謙 二宮和也 伊原剛志 加瀬亮 中村獅童
軽々しい言葉でこの映画を語るのが恥ずかしく思える。それくらいに劇場を出た後も、重いけれども他の映画では感じ得ない余韻に浸っていた。この映画を力作と言わず何と言おうか。クリント・イーストウッド監督の一貫した”人間”を見つめる視線は、非アメリカ人キャストで極まった。国境を越え、戦争がいかに人間性を失わせるのか、戦争の愚かさをつくづく考えさせられる。出演者の熱演は素晴らしい。渡辺謙扮する栗林中将の生き様、伊原剛志扮する西中佐・・・。
イーストウッドのプロダクションである「マルパソ」と、スティーブン・スピルバーグの「アンブリン」の名が並ぶタイトル。スピルバーグはここ10年余、エンターテイメント路線とは異なる映画を通じて歴史を見つめてきた。それを通じて平和を訴えるのが自分の使命だと言わんばかりに。そして現代ハリウッドで人間をきちんと見据えて映画を撮れるイーストウッドの演出。ハリウッド映画がここまで真剣に日本人を描いたことに感動を覚える。捕虜となった米兵が持っていた手紙を伊原剛志が読み上げる場面には涙を堪えた。「鬼畜」と教えられてきた敵が同じ人間だと理解する瞬間。きっとここは国境や人種を超えて感動を呼ぶはず。ただ日本人が生きて帰ることを「恥」と感じていたことは描きにくいところかな・・・すり鉢山陥落後死を命ずる上官の姿は、他の場面が丁寧なだけにやや唐突な印象を受ける。
同じ太平洋戦争を扱った「シン・レッド・ライン」では、疲弊した日本兵にさえ苦戦する米軍が描かれた。力作だったが日本ではヒットしなかった。日本が負ける映画だからだ。一方で甘っちょろい「パールハーバー」はヒットした。日本が勝つからだ。日本人は何とも身勝手である。しかしこの「硫黄島からの手紙」はハリウッドが日本人を理解しようとしたひとつの到達点として受け入れられることだろう。「ウインドトーカーズ」で、戦争をしているが「50年後には日本人と酒を酌み交わしているかも」という台詞があった。かつて戦火を交えた日本人をハリウッドが理解するまで60年かかった・・・ということなのかな。そう思うと、世界中で続いている、国と国との不寛容が生んでいる紛争や対立についても考えてしまう。ハリウッドがいつかイラクを、ベトナムを、この映画のように描ける日が来るだろうか。それにつけても、遺された手紙からその人を理解する・・・というお話は「マディソン郡の橋」にも通ずるところだよね。イーストウッドの好きなパターンなんだろか。
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