◼️「恋に落ちたら…/Mad Dog and Glory」(1993年・アメリカ)
監督=ジョン・マクノートン
主演=ロバート・デ・ニーロ ユマ・サーマン ビル・マーレイ デヴィッド・カルーソー
"mad dog"と署内で呼ばれる中年刑事ウェイン。ちょっと臆病者で独り身。彼は強盗に人質に取られていた男フランクを助けたが、フランクは表向きはスタンダップコメディアン、裏はギャングのボスだった。すると、命の恩人であるウェインを1週間世話をするようにとフランクに命じられた美女グローリーがやって来る。ギャングから刑事への便宜を受け入れてよいのか、一方でグローリーへの愛情を感じ始め、映画は終盤に向けて男の葛藤のドラマになっていく。
"mad dog"は狂犬の意味だが、"勇敢な"と言う使い方もあるとか。冴えない刑事である主人公が、自分はどう行動すべきか思い悩み、"もっと勇敢だったら"とそんな自分を思い浮かべるシーンも出てくるから、ここでは後者の意味なんだろう。警察という厳しい職場で、臆病な刑事が同僚に"勇敢"と呼ばれるってイジメじゃないのか。それとも彼を鼓舞してるのか。少なくとも狂犬の意味でそう呼ばれてるとは思えない。加納錠治(「ドーベルマン刑事」)じゃないんだからな。
しかしながら、シリアスな作風でもなく、恋愛劇でもなく、友情になり得なかった男のドラマでもなく、かと言ってコメディ色が強くもなく、全体として振り切れてないからどこを着地点にして納得していいのか観ていて迷ってしまう。ビル・マーレイは憎まれ役なのかもしれないけど憎みきれないし。
一方、素敵なシーンがあれこれある。長身のビル・マーレイとデ・ニーロが机を挟んでのメンズトーク、長めのベッドシーンのほてった表情、同僚がウェインのためにボコボコになるのも厭わない兄弟仁義。趣味の写真を認めてもらった嬉しさとか。
自分がもっと勇敢なら…と自分に自信を持てない中年男が、映画の最後に拳で立ち向かう。そこまでの葛藤のドラマは同世代になっちまった今の自分には、すごくわかるところもある。窓辺でグローリーを抱きしめる場面や、Just A Gigoloを歌いながら現場検証をする場面(なんて不真面目な…)なんて、痛々しくも見えるけれど、あの年齢で恋心に火がついたら狂うよなぁ…と妙な納得をしてしまう自分がいる。物足りない映画かもしれないけど、今の年齢だから響く部分はとても好き。