◼️「エルビス・オン・ステージ/Elvis : That's The Way It Is」(1970年・アメリカ)
監督=デニス・サンダース
主演=エルビス・プレスリー ジェームズ・バートン チャーリー・ホッジ
中学生の頃。自宅の棚の上に古いシングルレコードが縦に詰め込まれた箱を見つけた。中には50-60年代映画の主題曲やらダンス音楽やらカスケーズ「悲しき雨音」やら。映画好きになりかかった頃だったし、音楽はオールディーズに何故か興味をもっていたから面白くなってあれこれ漁って聴いていた。そこにあったのが、赤い背景にギターを持った男性がジャケットに描かれたレコード。曲名は「ハウンドドッグ」、B面は「冷たくしないで」。エルビス・プレスリーである。
「あ、それ私のよ」
振り向くと母がいた。普段とても穏やかな人だから、(当時としては)けっこう激しいのを聴いていたことに驚いた。だって台所で奥村チヨの「終着駅」を口づさんでる姿しか見ていないんだもの。
「プレスリーと大川橋蔵の映画は、ほとんど映画館で観てるわよ。」
母は筋金入りのプレスリーファンだった。僕の音楽鑑賞のルーツを遡ると、ビートルズは父親に、プレスリーは母親に仕込まれたようなものだ。
エルビスの主演映画はレンタルビデオでいくつか観たが、ライブ映像をじっくり観る機会がなかなかない。大人になってから、BSで放送された「エルビス・オン・ステージ」を鑑賞した。1969年にラスベガスで催されたコンサートのドキュメンタリー。ステージアクションにバンドメンバーがいちいち反応する。合唱隊かと思える人数のバックコーラス。一座を従えているビッグスター。豪華な舞台。
中学生の頃エアチェックしたカセットで散々聴いた曲が次々に流れる。代表曲はもちろん素晴らしい。中でもSuspicious Mind、Polk Salad Annieの熱唱が心に残った。サイモン&ガーファンクルの「明日に架ける橋」も、エルビスが歌うとこんなに力強い曲になるのか。
60年代半ば以降、アメリカ音楽界は英国の侵略(ブリティッシュ・インベーション)の真っ最中。それでもチャートの上位に食い込むヒットを飛ばし続けていたのはエルビスだった。この映画でエルビスのステージを見つめる人々の眼差しと拍手。アメリカ音楽界でのエルビスの存在の大きさを見せつけられた気がした。