Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

ちひろさん

2024-04-29 | 映画(た行)


◾️「ちひろさん」(2023年・日本)

監督=今泉力哉
主演=有村架純 風吹ジュン 豊嶋花 リリー・フランキー

海沿いの街のお弁当屋さんで働いているちひろさんを中心に、彼女をとりまく人々が少しずつ変わっていく姿を描いた好編。ネトフリで配信が始まって以来好評を目にしていて、そんないい話を一部だけのものにするなんて…映像コンテンツは商品だけどみんなが観られてナンボじゃないのか、とちょっとイラついていた。DVDで観られるようになり、めったに新作を借りない僕が迷わずセレクト。

不思議な魅力をもった作品。
「ちひろさんなら大丈夫。あなたなら何処にいても孤独を手放さずにいられるから」
クライマックス、風吹ジュンのひと言が心にしみる。その意味を考えさせられる。誰にも干渉されず、自分の居場所があって、自ら他人に深入りはしない。でも他人と関わることを拒絶してるわけでもなく、むしろサラッと人をつなぐ役割を果たしてくれる。

ここで使うべき言葉とは違うかもしれないが。ちひろさんは人たらしの一面がある。愛想が良くて、人を悪く言わない、人の話を聞いてくれる。決して周囲のご機嫌とりでも、人づきあいが上手でもない。それでもクライマックスの屋上シーンのように周囲の人をつないでしまう。

その一方で自分の孤独を抱えている。不安だってないわけじゃないだろう。でも自分で自分の機嫌をとれる人なんだろう。ストレスが溜まったらラーメンを食べ、海を眺める。人恋しくなったら、女友達に寄り添って、異性との愛を求めないけれど欲しくなったらそれを隠さない。甘え上手なところもある。

そんなちひろさんの過去は、"店長"リリー・フランキーから少しだけ語られる。そのわずかな言葉と、ボロボロの靴を履いたリクルートスーツ姿の彼女がビルの屋上に佇む映像は何よりも雄弁だ。必要とされる存在だと感じられないことの辛さと、形はどうあれ必要だと思ってもらえることの大切さ。劇中登場する2つの面接シーンに涙してしまった。コロナ禍の数年間に、人との距離感やつながりを考えさせられただけに、本作や「PERFECT DAYS」が多くの人の心に染みるのだろう。

食事のシーンも、家族や人とのつながり、自分を養い元気づけること、誰かを思うことにつながっていて、映画化にあたりよく練られた演出だと思った。美味いもんなら誰と食べようと一人で食べようと美味いはず。でも家族との食事がプレッシャーでしかない女子高校生オカジが、マコト少年が世界一と言う母ちゃんの焼きそばを食べる場面。こっちまでもらい泣きしてしまった。マコト少年の花束のエピソードもよかった🥹

多くの人と同様に「あまちゃん」で有村架純を知ったのだけど、女優としての彼女を僕は甘く見ていた。この映画でみせるいろんな表情と芝居に感動した。近頃の日本映画の重たそうなムードから僕はどうも敬遠しがち。不勉強だなと痛感。







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