Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

クリスマス・ツリー

2024-11-07 | 映画(か行)


◼️「クリスマス・ツリー/L'Arbre deNoël」(1968年・フランス)

監督=テレンス・ヤング
主演=ウィリアム・ホールデン ブルック・フラー ヴィルナ・リージ

少年と父親が海で遊んでいるところに突然起きた飛行機事故。核兵器を積んでいたことから少年が被爆、白血病で余命半年と診断された。父親は残された日々を一緒に過ごすために、自分の静養だと言って田舎のシャトーで暮らし始める。

日本では昔からこうした難病ものがウケる。古くは吉永小百合の「愛と死を見つめて」。テレビでも「赤い疑惑」の白血病、昼ドラ「わが子よ」の骨肉腫、「神様、もう少しだけ」のHIVと挙げたらきりがない。イタリア映画の難病もの秀作「ラスト・コンサート」も日本資本で製作されているし。

本作は王道の難病もの映画だが、病気の子供が苦しむ姿はほぼ出てこず、せいぜい悪寒を感じて横になる程度。心境が深く描かれるのは周りの大人たちで、少年は病気を知ってからも「まぁ楽しくやろうよ」と言う。それは強がりなんだろうが、大人たちに陰も見せずに接する。映画前半は金持ちボンボンらしくわがままを言い放題で、大人たちがそこまで叶えてやらんでもと思える。しかし、映画後半、父親のベッドにもぐり込むあたりで、直接表現されない少年の気持ちが、観ているこっちにジワジワとしみてくる。

心情を吐露するのが大人だけという潔い演出は、子役に過剰に演技の負担をかけず、一方で観客に子供の心情を想像させて感情をかき立てる。監督は「007」シリーズで知られるテレンス・ヤング。台詞に頼らないラストシーンは狼の遠吠えだけが悲しく響く。変に回想シーンを挟んでお涙頂戴にしない。ただ抱きかかえて部屋を出るだけ。余韻が残るラストシーンはお見事。

狼を飼いたいと言い出す息子のために、動物園に忍び込むのはいかがなものかと思うが、その後の狼と少年の姿を見るとちょっと救われる。映画「禁じられた遊び」で有名な楽曲「愛のロマンス」が美しく使われている。



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フィツカラルド

2024-11-03 | 映画(は行)


◼️「フィツカラルド/Fitzcarrald」(1982年・西ドイツ)

監督=ヴェルナー・ヘルツォーク
主演=クラウス・キンスキー クラウディア・カルディナーレ ホセ・レーゴイ ポール・ヒッチャー

船が山を上る強烈なビジュアルに惹かれて、学生の頃からずっと気になっていた「フィツカラルド」。やっと観られた。天然ゴム景気に沸く19世紀末のペルーを舞台に、密林を切り拓いてオペラ座を建てるという野望に駆られた男の物語。

主人公の取り憑かれた野心にも圧倒されるけれど、実際に現地で過酷なロケを行い、山越えをする船を実際に撮る狂気。もはや土木工事。上流へと川をのぼるストーリー展開、主人公や乗組員がギリギリの心理状態に陥っていく様子にコッポラ監督作「地獄の黙示録」のイメージが重なる。執着という狂気に駆り立てられたのは脚本に役として載る人物たちだけではない。カメラのこっち側にいる人々も同じ。こんな映像はもう撮れないだろう。今なら山を切り拓く場面に森林破壊だとかクレームがありそう。それだけに、ここに収められた映像は貴重なものと思えた。

ジワジワと小舟で迫ってくる原住民たち。
「カルーソーの出番だ!」
と主人公が船上でレコードをかける場面。ジャングルに響く歌声は、原住民にはどう聴こえたのだろう。これも「地獄の黙示録」でワーグナーが使われたことに、ちょっと共通点を感じてしまう。人々に与えた感情は違うだろうが。

クラウス・キンスキーが着る白いスーツ。あの状況では動きにくくて不快になりそうなもの。それでもその容姿を保とうとするのは、現地民や雇った乗組員とはオレは違うぞという心意気でもあるし、人々を見下して思い上がった当時の西洋人の象徴にも見える。しかしその白いスーツを泥で汚しながら切り拓いた現場を走り回る主人公に、僕らは心のどこかで声援を送っていたようにも思える。映画のラストに登場する船の上での演奏は、主人公が思っていた形こそ違えども、彼が貫いた音楽愛のひとつの形でもある。この幕切れはどこか痛快にも感じられた。

クラウス・キンスキーだからこそ演じられた狂気。彼を支える娼館の女将クラウディア・カルディナーレの存在感。ラストシーンで再び見られたその笑顔は、息が詰まりそうな緊張の船旅を乗り切った僕ら観客の心をもほぐしてくれる。



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