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お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

霧の旗

2024-11-24 | 映画(ま行)


▪️「霧の旗」(1965年・日本)

監督=山田洋次
主演=倍賞千恵子 滝沢修 露口茂 新珠三千代

清張の「霧の旗」は幾度も映像化されているが、山口百恵主演の77年版しか観たことがなかった。以前から興味があった山田洋次監督×橋本忍脚本による65年版。北九州市立中央図書館で催される松本清張映画会で上映されると聞いて、参加してきた。古い日本映画は台詞が聞き取れずに悩まされることが多いし、今回は図書館の多目的ホールが会場だから聞き取れる音響なのかを心配していた。だが参加者のマナーと集中力が優れているのか、上映中は物音ひとつせず。没頭して観ることができた。感謝。

無実の罪で死刑を宣告された兄を救おうと上京した妹霧子は、有名な大塚弁護士に助けを求める。しかし高額な弁護料を支払えないからと依頼を拒否されてしまう。兄は獄中で病死。その報を聞いた大塚弁護士は、個人的に事件を調べ始める。その頃、再び上京して夜の街で働き始める霧子。彼女の復讐が始まる。

理不尽な状況に追い詰められた人を描く橋本忍と、そうした状況におかれた人間のドロドロした感情や行動を表現し続ける松本清張。その相性の良さが発揮された映画だと確信。

兄に無実の罪を着せたのは警察の誤った捜査のせいで、大塚弁護士に罪があるわけではない。言ってしまえば見当違いの逆恨み。だが社会的な地位や富ある者と経済的社会的弱者の優劣がひっくり返される展開は、強烈な結末を突きつける。何もそこまで…と思ってしまうけれど、これは憤りが行動の原動力になった行末。そこに許す気持ちやあきらめが入り込む余地はなかった。

倍賞千恵子の熱演がとにかく光る。ラストシーンのなんとも言えない表情が心に残っている。成し遂げた復讐、彼女の心に何が残ったのか。そこに至る気持ちは海に投げ捨てたもののように、沈んでいってくれるのだろうか。

ストーリーの面白さはもちろんなのだが、演出も凝っている。大塚弁護士に断られた後、東京の街を歩くヒロインが映される場面では、絶え間なく行き交う車が映されるのに、画面から聞こえる音は霧子の足音だけ。台詞や役者の表情に頼らずに、ヒロインが置かれた孤独と 絶望感、願いが届かない寂しさが無言で示される。

そこで思い出したのは、先日観た橋本忍監督の「幻の湖」に出てきた、東京の街をヒロインが一人歩くシーン。愛犬を殺した仇である音楽家を尋ねて東京に出てきた主人公が、門前払いされて苛立つ姿が描かれる。「東京中がアイツの味方をしている」と彼女の心情を表すひと言が添えられる。橋本忍の頭に「霧の旗」のあのシーンが念頭にあったのかは知らないが、共通点のようで面白い。

人情映画のイメージがある山田洋次監督。本作は唯一のサスペンス映画でもある。ヒロイン霧子と兄がどれだけ仲良しでお互いを思っていた兄妹なのかを語る近所のおばちゃんが出てくるが、演じているのが「男はつらいよ」のおばちゃん三崎千恵子。こういうキャスティングに、勝手につながりを感じる映画ファンいるだろな。おかげでその場面から後、倍賞千恵子が「兄は…」と口にするたびに、違うお兄ちゃんの顔が一瞬浮かんだりしてw

ともかく、清張作品の面白さを堪能できる秀作。ほかの映像化作品と比べるのも楽しいかも。




コメント
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