なんたって、スター誕生!ってことでしょ、今回の目玉は。
これまで菜の花座じゃ、主役的な役はあっても、はっきりスターとしてその人中心に舞台を作るってことはしてこなかった。舞台に立つだけで観客の視線を一気に引き付ける、そんな圧倒的な魅力を持った役者がいなかったってことじゃあるが、役者同士の嫉妬や妬みが怖い?無難にみんなそこそこの役を振って、って意気地なしの八方美人志向が無いわけじゃなかった。特に、シニアではね。演劇人としてのスタートは一緒だし、実人生ではそれぞれ、そこそこやり遂げて来た人たちだから。役者としての扱いに差をつけてしまっていいものか?それに、シニアだし、楽しく心地よくやるのが優先なんじゃないか?とも思っていたわけだ。
でも、もう公演も3回目、他にも菜の花座本体にも混じって演じてもらったりして、力の差は確かにあるよなぁ、ってことは誰の目にも明らかになってきた。僕から見て、もっともっと能力を伸ばしてみたい、魅力を引き出してみたいって思う人も出て来たってわけだ。それが今回の主役茉莉を演じたヒロコさんだ。
踊れる、歌える、芝居ができる、三拍子そらってる、ってだけじゃない。スタイルも若手にも見習って欲しいほどスリムで均整がとれているし、顔立ちも美しい。立ち姿は実に凛々しい。至近距離に近づかない限り、ごめん、シニアの年齢だなんて、だれも思わないだろう。でも、これだけで、惚れ込んだわけじゃない。いやいや、十二分に強烈な引力だけど。
役に対して、貪欲なことだ。これまで、彼女には変な役ばかり押し付けてきた。『女たちの満州』の娼婦といい、『不幸せくらべ』の男に言い寄る妖しい女といい、『夢金ラプソディ』のチンピラやくざの取立人といい、いやぁ、よくもこんなゲテ物ばかり与えてきたよなぁ、って感心するくらい超個性的な役ばかりだ。どうしてこんな変てこな役ばかりなんですかっ!って食って掛かられるのも毎度のことだ。
でも、現実離れした役を振りたくなるってところが彼女の力なんだ、魅力なんだ。それに、一風変わった役でも、実は劇の首根っこをグイっ掴んでいて、間違いなく見せ場がある、そう書いてきた。台本をもらえば、必ず、どうして私なの?!と不満は口にするものの、すぐに気持ちを前に向け、やってやろうじゃないの!と歩き出す、そこが彼女の一番素晴らしいところだ。スターを張るには、他のメンバーを圧倒するやる気がなくちゃ話しにならない。
理解力の高さ、それを演技に生かす才能、それもずば抜けてるって思う。コミカルな笑いが取れる持ち味も天性のものだ。でなければ、今回の『クロスロード』のような、70歳、50歳、40歳、30歳、20歳、果ては15歳まを演じ分けるなんてできるわけがない。衣装選びのセンスも高い。ヘアーウィッグの使い方なんて、僕には想像だにできなかった。ほぼ、任せきりにしたって言ってもいいくらいだ。
そんなヒロコさんだから、スタートして菜の花座の中心に立ってもらうことにした。はっきりとスター誕生!を意識して今回の台本は書いた。舞台は仕上げた。大衆演劇が女座長の実力で客を呼び、プロの舞台が出演者の名前で喝采を浴びるように、アマチュア劇団だって、あの人が出るなら見に行く!彼女に会いに劇場に出かける!そんな吸引力のあるスターがいた方がいいんだ。とかくスター主義と顔をしかめられるが、舞台はやっぱり、人なんだ。役者あっての作品なんだ。
主役ばかりじゃない。脇役だって、人で客を呼べるようになれば、劇団は地域に根差したってことになるんじゃなかろうか。贔屓の役者がいて、なじみの顔を舞台に見て、そのことが観劇後の話題に上がる、そんな日を、まずは菜の花座スターヒロコさんを看板に目指して行こうか。
すべてに万能無敵な彼女の数少ない弱点、それはアクセント!いつまでたったら、アクセント違う!なんて不毛なダメ出しから解放されるんだろうね。