道端の畑で菜っ葉の間引き。バイク止まって、降りてきたのはFさん。こちらに越してきて以来の付き合い、30年来の古なじみだ。彼女の人柄の良さには、移住当初ずいぶん助けられたもんだ。
「これ、」と差し出されたのは、箱いっぱいのデラウェア。
「形悪くて、ジベ処理しねかったやつ。種ありだけど、よかったら。」
うーん、正直、ブドウは大粒系の高級品種を近所の教え子農家から買ったばかり、デラはなぁ、ってずいぶん贅沢になったもんだぜ。種をなくすジベレリン処理なんて魔術が広まる以前は、ブドウと言えばデラウェア、酸っぱい種周りなんて飲み込んじゃえばいいのさ、って大いにありがたく頂戴していた。なのに、今じゃ、ええーっデラ?種あるのぉぉぉ??だもの。
そのまま木に残しておいてもいいんだけど、猿に食われくらいなら、と採ってきたんだって。うーん、猿よりましか?なぁんて憎まれ口はきかない。Fさんの善意は満面の笑顔の中にこぼれている。ここは、素直にいただく以外に選択肢はない。
さて、どうしよう?
ブドウってやつは、加工に向かないんだ。ジュースでもジャムでも、しばらくすると酒石酸ってのが、雲母みたいに結晶してきて邪魔をする。ワインにすれば?って神さんの提案も、デラのワインなんてなぁ、我が家産自慢の栽培農家でなきゃありがたがれない代物だ。ほっとけば酢になるよ、ワインビネガー。ってアドバイスも聞こえてきたが、これも雑味多くて、わざわざ作るほどのものでもない。
うーん、どうしよう?
箱いっぱいって言ったって、たかだか4,5キロ。そうか、ジュースにして酒石酸のオリができる前に飲んじまえばいいのさ。
まず、ヘタから実を削ぎ落す。鍋の中で入念につぶす。ブドウの粒って思いの外頑丈なんで、そのままではジュースがにじみ出ないんだ。ほら、ドイツだかのお祭り、ワイン仕込み。何人かが樽に入って踊りながら足で踏みつけるだろ、あれだよ。粒粒が見えなくなったら、加熱する。80℃を越えるくらいで果皮の色素がしみ出して、ジュースはきれいな赤紫に染まって来る。これで十分、煮詰めちゃいけない。
工場で作る時は、布袋に詰めて圧搾するんだが、そんなの面倒、やってらんないよ。笊でいい、笊で。時折、ヘラで押さえたり、笊の目詰まりを拭ったりしながら、15分、ほぉぉれ、じゅーすが出来上がったぜ。瓶詰めして保存、なんてことは考えない。だって、酒石酸!殺菌だってしない。2、3日内に飲んでしまえばいいのさ。
色合いは美しい!お味の方は?
美味ぁぁぁい!けど、甘ぁぁぁぁぁぁい!ジュースなんてもんじゃないぜ。完全にスイーツのレベルだ。さすがにコップ一杯は飲み干せない。そうか、トマトジュースがあった。あれで割ってみる。よしっ!これなら行ける。そのまま生で舐めるように楽しむのもいいが、トマトやニンジンやセロリ、すべて自家製である、これらをブレンドすれば、味わい絶品!栄養価満点!のグレープスムージーだぜ。えっ?ゴーヤ豊作だから、ゴーヤミックスは?って、うーん、それはちょっとぉぉぉぉ・・・