水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

悪人

2010年09月24日 | 演奏会・映画など
 映画「悪人」は、原作のもつ世界を丁寧に映像化した作品で、とくに役者さんのハイレベルな仕事ぶりが堪能できる。
 深津さんが外国の賞をとって話題になったが、彼女はこれくらいの仕事はふつうにこなせる方ではないだろうか。
 樹木希林、柄本明、両御大の達者さは論を俟たない。
 金持ちのぼんぼんで憎たらしい大学生を演じる岡田将生くん、よかった。
 本気に憎らしくなってくるくらいに上手で、『告白』のときのノー天気な先生役も上手だったことを思い出した。
 満島ひかりさんも、言うまでもなく上手なんだけど、存在感がありすぎて、序盤で殺されちゃっていいの? と思った。
 この芸達者な方々に混じると、がんばってはいるけど、妻夫木くん若干見劣りするかなあ。
 いい人役しか見てこなかったからかもしれないけど。
 たとえ、過ちやアクシデントであったにせよ、殺人という大罪を犯してしまう「人」というか「身体」に見えてこないのだ。
 悪い人オーラが出てない感じというのか。
 もちろん、これは原作の問題でもある。
 殺人の動機というものの多くが、理屈で説明できないものであるのはまちがいないけれど、それにしてもこの作品の殺人は唐突で、その背景が十分描写されてるとは言い難い。
 原作はなんとか賞もとった小説で、吉田修一さんという作家さんは高く評価されている。
 いくつか読んだ限りにおいては、現代人の風俗をたくみに描いているが、ただそれだけ、特殊が普遍に昇華する一文は見つからず、この作家さんがこんなに高い評価を受けてしまうことじたいが、文学の方向としていかなるものかという、めちゃめちゃ高飛車な感想をもっている。
 でも「パレード」もそうだったけど、映画化されて、生身の身体でその世界が表現されると、命がふきこまれてくるのが不思議だ。
 
 
コメント (2)
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