『面接ではウソをつけ』は、奇をてらった本かと最初思ったけど、最後まで読むときわめてまっとうな生き方論だと思えた。
筆者は、工学部を卒業したあと住宅会社に入社し、営業畑を歩んできた方だそうだ。
「口べた」で「あがり症」だった筆者が、従来に営業のやり方では結果を出せず、開き直って常識にとらわれずにやり方をかえた時から一気にトップの成績をあげられるようになった。
面接も営業と似ているという。
面接に向いてないタイプ、「暗い」「内気な」「コミュニケーション下手」な人が、いわば就活弱者がどう面接にのぞめばいいかを語った本だ。
最初の方にこんな表現があって、一気に筆者を信頼してしまった。
~ 自己啓発・自己暗示によって瞬間的な高揚感や「私はできる!」といった全能感を得ることはできるのですが、それはドーピングみたいなもので、長続きはしないのです。(菊原智明『面接ではウソをつけ』星海社新書) ~
そうなんだよあなあ。自己啓発本を読んだ数なら、たいがいの人には負けない自信はあるけど、世の中に影響を与えるような人になんてなれなかった。
筆者は「そもそも人が人を評価するなんて無理」「面接官は採用のプロではない」という認識からスタートしている。
なので、「自己分析を徹底的に行うべき」ではなく、相手がどういう存在なのかをみきわめることが大事だという。
~ これらを考えることなしに面接にのぞむのは、素っ裸で戦場に向かうようなものでしょう。
このように、就活において「自分以外」のことを分析することを、私は「他己分析」と呼んでいます。自己分析にかまける時間があるなら、そんなことはさっさとやめて(3日もあれば十分です!)、全精力を他己分析にそそいでください。
「相手の立場」のことを考え、「相手の立場」に合った行動を取らなければならないのです。「あなたの立場」なんてものは、あまり関係ありません。 ~
もちろん筆者も、自己分析が不要と言ってるわけではない。
話のネタとして自分の人生をふりかえってみる必要はあるという。
でも、そこから自己分析をして無理にアピールポイントをつくる必要などないという。
「ダメ人間は、いくら自己分析をしてもダメな自分しか出てこないので、アピールポイントなんて見つかるはずがないのです」という言葉は、きびしいけど、多くの人にとってはある意味真実だ。
自己分析を徹底的に行ったら、他人より抜きんでた能力が見つかった! なんて人はふつういない。
だからこそ普通に就活して、入社して、おまんまを食べて行かねばならないのだ。
それがいやだったら、就活そのものをやめるしかないだろう。
で、筆者は、自分を変える必要はない、他己分析をして、それにあった自分を演じることが大事だという。
これって、考えてみると「ウソ」でもなんでもなく、人はそうやって生きていくのが普通なのではないか。
生徒さんのまえでは教師としてふるまわないといけないし、家では父親としてふるまわないといけない。
役割をきちっと演じることが社会的動物としての人間の基本であり、それがうまくできるかどうかで成熟の度合いが測られる。
基本はそうであるべきなのに、「本当の自分を大事にしよう」なんていう根本的勘違いスローガンが世の中に蔓延したから、かえって生きにくくなってしまったのだ。
「面接にパスするために、過去のダメな自分を捨て去って、まったく新しい人物に生まれ変わる必要などありません」と筆者は言う。
「あなたは、あなたのままでいい」と。
なんか、上手だな、この人。
読んでて自信がわいてきた。
ただし「自分の『考え方』と『行動』だけは変えてください」という。
実際にはそれが難しいんだけど、そのための具体的方法がいくつもこの本には書いてある。
それらは現代を生きる若者にとって、必要な「教養」と言える。
「教養」は「素っ裸で戦場に向か」わないための「武器」だ。
この本は星海社新書の一冊だ。
若者に「武器としての教養」をくばりたいとの思いで編集していると、巻末に書いてあった。
同じシリーズの『仕事をしたつもり』『「やめること」からはじめなさい』『資本主義卒業試験』も読んでみた。
どれもつぼにはまった。
いったいどういう人がこの新書を作っているのだろうと思った。
新書の編集長は、柿内芳文さん … ?
ググってみたら、光文社新書で『さおだけ屋はなぜつぶれないか』他ベストセラーを乱発した方ではないか。
しかも32歳! すごいなあ。やっぱ抜きんでた人っているわ。