「幕末太陽傳」を観ようと出かけた年末のテアトル新宿は年配のお客さんでいっぱいだった。
こんなにここに人が多いのをみるのは、今年一番のがっかり作「冷たい熱帯魚」以来かもしれない(これが一言よけいなんだよね)。
「幕末太陽傳」は、映画完成時(1957年)の品川の光景をバックにキャストが映し出されるのをみるだけで、往年の映画ファンにはたまらない作品だろうなと思える。助監督に今村昌平、音楽は黛俊郎だもの。
キャストも、主演フランキー堺をささえる脇役陣が、20代の石原裕次郎、南田洋子、山岡久乃、岡田真澄という面々で、名前だけ知ってる名優たちに、今の藤原竜也くんや綾瀬はるかちゃんみたいな時代があったのだと思える。そんな中で菅井きんさんだけは数十年前も変わらず菅井きんさんだったけど。
作品は落語をベースにして品川の遊郭を舞台に繰り広げられる人間模様を描く。
幕末、時代は大きく移り変わろうとしていた。
そんな世の動きを感じているのか感じてないのかわからないものの、何となく浮き足立っていた当時の人々の様子が、様々な階層の人々が参まりえた遊郭という希有な場所だからこそ、描くことができたのだろう。
「居残り佐平次」だけでなく「品川心中」「三枚起請」「お見立て」「文七元結」といった落語の登場人物や台詞で構成されているから、落語を知ってる人にはおもしろい。
おそらくこの映画が公開された1950年代後半(さすがに私も生まれてません)は、多くの日本人がその落語世界をイメージできたはずだ。
テレビが普及するのはもう少しあとで、ラジオの落語放送が一番手軽で一般的な娯楽だった時代だから。
でも今の人にはちょっと通じきらないだろうな。
もちろん、落語を知らなくてもおもしろいし、楽しめるが、公開時にこの映画を観れた人は、どんだけ楽しかったことだろうと思うのだ。
「宇宙人ポール」は、いろんなアメリカ映画、とくにスピルバーグ作品がネタとしてもりこまれたSFコメディ。
イギリス人のSFオタクの二人が、夢にまでみたアメリカにやってくる。
コミコン(日本でいうコミケ)に参加し、宇宙人が到来したとされる伝説の地「エリア51」(UFOスポットとして観光地になっているそうだ)へ旅したところ、ほんとうに宇宙人に出会ってしまうというお話だ。
宇宙人ポールは、地球に飛来して以来何十年もとらわれの身だったが、自分の星に帰ろうと施設を抜け出してきた。それを阻止しようとするアメリカ当局の追っ手から守り、宇宙への帰還を果たさせてあげようとする二人。
この二人、男二人で旅行しているだけで、ゲイのカップルという扱いを受ける。
ゲイのカップルでオタクだから、一般的アメリカ庶民からはキモい存在で、撃ち殺してもいいんじゃね的な扱いになる。
これって、おもいきり意図的にだろうが、異文化、異人種、異宗教を認めようとしないアメリカ人を揶揄してるよね。
イギリスからやってきた二人は、アメリカに夢をいだいていた。
自分たちの大好きな数多くのSF作品を作りだしているアメリカであり、そこに住むのは陽気でハッピーなアメリカンのはずだった。
でも実際に彼らに接してきたのは、異文化を認めない町の住民や、キリスト原理主義の親子で、自分たちはアメリカ人にとっては「エイリアン」かもしれないことに気づく。
彼らがイメージしていたアメリカを体現するのはなんと宇宙人ポールだったのだ。
その気性やものの考え方が。
英語ができる人にはこれもものすごくおもしろはずだが、宇宙人はめちゃめちゃネイティブで今風のアメリカ英語を話す。ルックスとのギャップが楽しい。
おそらくイギリス人役の二人はイギリスチックに話してるのだろう。
作品にはいろんなSF映画の場面がちりばめられている。
にわか映画ファンのおれでも、あれかなと思えるところがある。
「ET」にいたっては、スピルバーグが声の出演をし、なぜポールと「ET」が似てるのかもわかる。
ふつうに洋画を観てきた人、SF好きな人なら、本当に楽しめる。
ていうか、最後泣けるから。
こんなほんと年末に、今年のベスト級の映画が観られてよかった。
落語ほどには過去の映画を知らない自分でも、「幕末太陽傳」よりこっちの方がおもしろいのは、「今」の作品であることが一番の理由だろう。ほんと名作です。高校生より大人が見るべきだと思う。