堀之内のマムシ
母がその実態よりも伝説化され、まむし獲りの名人と呼ばれていた事は知っていた。
母を真似た訳でもないが小さい時から母の仕種を見ていて自然に覚え何時の間にか一人でも捕まえるようになった。
母が前掛けにそっと包み込み持ち返ったような具合にはまだいかず、
首に細く裂いた手拭いを縛り付けつつも生かして帰る。最近はレジ袋にそのまま収める獲り方に方法は変わった。
可愛そうでもあるがそこは堪忍してもらい普通は三十五度の焼酎をたっぷり飲んで頂く。
で、或時ウィスキーに入れると、その強烈な匂いがしないと聞き、
タイミングよく捕まえた蝮に安物で申し訳なかったが飲ませてみた。
家内が捜し物で地下の物入れを明け大声で悲鳴を上げた。
そこにはほぼ空になり底に蝮の鎮座するウィスキーの空き瓶があった。父が飲んでしまったのだ。
捕まえる際、運悪く殺してしまった蝮は焼いて食べるが埃臭い煮干のようで旨くも無い。
最近は度数が四十七度もある、マムシのイラストのラベルを貼った「マムシ用」なる焼酎も売られている。
その宣伝ではあるが、マムシ焼酎が独特の悪臭を放つのは、アルコール度数が低いために、
蛋白質が腐敗してしまう匂いだと言う。
それでは度数が高いほど良いのかと言うと、それも駄目で、蛋白質が凝固して成分が出無いと言うのが、
焼酎メーカーの言い分である。