山女
家のすぐ近くの、飛び越せるような小さな川にも、
山から流れ出す清冽な水に山女、鰍が健気に生息していた。
家から歩いて三十分程の山際に、畑が少しあり、母の畑仕事の手伝いと言うより遊びに、
釣り竿を担いでついて行った。
実はその畑から少し上ったところに砂防堰堤があり、水の落ち際が深く、白く水が泡立っていて、
そこには形のよい山女がひそんでいることを、何かの折に見つけていたのである。
蚯蚓をつけ、堰堤の上からそっと泡際に入れると、竿先に山女独特の当たりがあり、竿先がしなう。
ぶるぶると身を震わせ、回りの空気も一瞬にして変えるような、
見事なパーマークと言われる模様を見せながら上がって来る。
畑仕事が終わり、家に山女を持ち帰り母が塩焼きにする。
当時は普通の食べ物であり、有難いとも思わずに食べていた。
後年のある日の事、小出の居酒屋の品書きに山女の塩焼きを見つけ懐かしさに頼んだが、
旨さと共にその値段にも驚いた。
でも、驚くような小さな川に住んでいた山女たちも今は全く姿を消してしまった。
川そのものが、自然を愛する人には悪評の三面コンクリート張りになり、山女どころか、
鰍さえ一匹も姿を見せてくれることは無くなってしまった。
しかも、その後の新幹線工事に拠り川の水は抜け落ちてしまい、水量の少ない小川となった。
鮭さえ登って来たという伝承を残す川も変わり果ててしまった
「まだ、その後覚えたものやら、山菜の話は続けられます。
しかし、今回からは目先を変えて「釣り」シリーズへと移行します。」