只見線とカモシカ
新潟県と、福島県をつなぐ只見線の除雪を出向会社の社員として、二シーズン任された事があった。
県境に近い雪深い村の駅の基地から、県境のトンネルの入り口までロータリー除雪車で除雪作業をする。
そこまで終わると、トンネルからの湧水を引き、敷き詰めたシートの上で雪を溶かす設備をした基地に到着し、
ターンテーブルで機械の方向を変え、再び除雪しながら帰って来るのだ。
県境付近の降雪と強風は、想像を絶するものがあり、雪庇、吹き溜まりが数多くできている。
湿った雪が降り積もった時など、投雪口からの排出雪が練り羊羹のようになり、それがつぎからつぎへと際限も無く続く。
乾いた雪は、投雪口から舞い上がり、風の向きによっては又自分達に降りかかり視界をさえぎる。
谷間の線路を、高い橋梁で右岸、左岸と亘りながら川を目掛けて投雪を続ける。傍を走る国道は有名な難所で、
冬季間は全面通行止めとなる。
事故があっても救援さえままならぬ線路である。もし、山から表層雪崩でも出たら、
川に押出されるのではないかとの、恐怖心も正直な所、ときたま顔をもたげる。
そんな中で、心を和ませてくれる奴がいた。「かもしか」である。
毎回同じ辺りで、通る時刻を承知しているかのように、三、四頭で見下ろしている。
大概の場合は動かず、顔の向きだけを変え見送る。
緊張の中で、一瞬気の休まりを与えてくれる奴等だった。
十五年振りと言われた、今冬の積雪の中、無事に冬を乗り越えたであろうかと、少し気がかりである。
(平成5~6年頃の話です)