事故と神様(プロドライバーだった父)その1
十数年前に九十二歳で亡くなった私の父は、
プロドライバーの草分けとも言える存在であった。
昭和の初めに二十歳で免許証を取得し、
以来六十歳でタクシードライバーを退職するまで四十年間を、
ハンドル一本で稼ぎ、私たち兄弟五人を育て上げた。
退職後は山の上にある三反歩の畑に自動車で通い、
野菜を作るのが日課となった。高齢での運転が心配になり、
運転免許の更新に同行したりもした。
さすがに加齢と共に運転にも陰りが見えてきたのだ。
運転を止めるように頼む事は忍びなかった。
しかし事故を起こしては取り返しが付かないと、思い切って話した。
不承不承ながら承諾してもらったのは86歳の時だった。
実に六十六年間無事故で車を運転したのである。
交通栄誉賞「緑十字銀賞」を頂き、母と一緒に皇居まで受賞に行けたのが、
父の最大の栄誉だった。
(続く)