昔話
「笑わないで 子供の時から決めていたの 男の子が生まれたらファルーク 女の子ならマリーア
私にはとても思い入れがある名前なの
もしも男の子ならきっと貴方に似るわ そしてお父様にも
正義を愛する 茶目っ気もあって
おかあさまのように優しく温かい心も
いつか強い心を持った大人の男になって
貴方が私を見つけて愛してくれたように 誰かを深く愛するんだわ
愛する相手をね とびきり幸福にするの
いつか 必ずー」
ー恋ー
それでも若い男は「何かを認めたわけではありません 僕が認めてしまうとご招待下さった公爵に面倒がかかります」
そう微笑むのだった
人は見たいものを見る
公爵夫妻は 若い男の微笑む姿に自分達の娘の面影を捜すのだ
若い男は続ける
「もしも僕が友人のミケーレなら・・・亡き母が育った場所が見たい 生きておられるなら おじい様おばあ様の姿を遠くからでもいいから見たい
知りたいと思うことでしょう
できれば どうにかして両親の事を伝えたいーと」
「ならばそのミケーレの代わりにな 儂は自分の孫に剣の手ほどきをしたい 幾つかの教えたい技があるゆえに」
公爵は若い男を別な広い部屋へ連れていく
静かに公爵夫人も同行する
「久しぶりにあなたの剣裁き 見たくなりました」
それはまるで互いの剣で語り合うような立ち合い
稽古
公爵が使う技をすぐさま若い男は呑みこみ使ってみせる
そうしたことを幾つか繰り返し
公爵は愉し気に笑っていた
「もしも孫息子ができたなら伝えたいと思っていた 夢がかなった」
「よろしゅうございました」公爵夫人も微笑んでいる
二重に鍵をかけた部屋の奥の小部屋で・・・公爵夫妻は身内用の打ち明け話を始めた
「この国には身分や立場を悪用し人を不当に虐げる人間もいる 反吐が出るほどクズな連中も」
「そうした人間ってこらしめたくなりますでしょ」と公爵夫人のマリーア
「血気にはやり腕に覚えがある若い奴は特にな」と公爵も頷く
「私はそんなお馬鹿さんに出会いましたの」
「ひどいはねっ返りは -もっと盗ってやればいいのにーってけしかけたんだ」
「ジョルジアナが育つにつれ そのお馬鹿さんも慎重になりましたけれど できれば自分の娘の婿にはこれが続けられそうな
腕の立つ人間をと そのお馬鹿さんは考えたのです」
「熟考して選んだつもりが その人間性を見誤った 旧体制側の身分に固執する人間だった伯爵は」
「そして父親のしていた事を知らないはずの娘は 父親と同じ考えで行動している人間を好きになった」
「僕は父から 父以前にも弱い立場の人間を迫害する連中を罰していた人間がいたという事は聞いています
それが公爵であったとー」
意外な打ち明け話に若い男は 自分の父親が義賊であったと認めてしまっていた
「これを受けとってほしい 志を継ぐ者として」
公爵は一本の杖を若い男に見せる
杖の握りの何処かを押すと 抜けて剣が出て来る
いわゆる仕込み杖なのだった
「そしてね 時々会いに来てちょうだい
無事な姿を見せてちょうだい
ここはあなたの家ですよ」
その地方には昔から謎の義賊の伝説がある
ひそかに伝えられ続けている
非道な行いをする者は悪行の報いを受けると
その義賊は 嘘かまことか つば広の黒い帽子を被り 顔は仮面で隠し 闇のように広がる黒いマントを翻し上から下まで黒ずくめ
そんな姿が粋に似合うのだと
「悪党め お前を許しはしない!」
彼は闇を切り裂くように現れて消える
黒い亡霊のように
「笑わないで 子供の時から決めていたの 男の子が生まれたらファルーク 女の子ならマリーア
私にはとても思い入れがある名前なの
もしも男の子ならきっと貴方に似るわ そしてお父様にも
正義を愛する 茶目っ気もあって
おかあさまのように優しく温かい心も
いつか強い心を持った大人の男になって
貴方が私を見つけて愛してくれたように 誰かを深く愛するんだわ
愛する相手をね とびきり幸福にするの
いつか 必ずー」
ー恋ー
それでも若い男は「何かを認めたわけではありません 僕が認めてしまうとご招待下さった公爵に面倒がかかります」
そう微笑むのだった
人は見たいものを見る
公爵夫妻は 若い男の微笑む姿に自分達の娘の面影を捜すのだ
若い男は続ける
「もしも僕が友人のミケーレなら・・・亡き母が育った場所が見たい 生きておられるなら おじい様おばあ様の姿を遠くからでもいいから見たい
知りたいと思うことでしょう
できれば どうにかして両親の事を伝えたいーと」
「ならばそのミケーレの代わりにな 儂は自分の孫に剣の手ほどきをしたい 幾つかの教えたい技があるゆえに」
公爵は若い男を別な広い部屋へ連れていく
静かに公爵夫人も同行する
「久しぶりにあなたの剣裁き 見たくなりました」
それはまるで互いの剣で語り合うような立ち合い
稽古
公爵が使う技をすぐさま若い男は呑みこみ使ってみせる
そうしたことを幾つか繰り返し
公爵は愉し気に笑っていた
「もしも孫息子ができたなら伝えたいと思っていた 夢がかなった」
「よろしゅうございました」公爵夫人も微笑んでいる
二重に鍵をかけた部屋の奥の小部屋で・・・公爵夫妻は身内用の打ち明け話を始めた
「この国には身分や立場を悪用し人を不当に虐げる人間もいる 反吐が出るほどクズな連中も」
「そうした人間ってこらしめたくなりますでしょ」と公爵夫人のマリーア
「血気にはやり腕に覚えがある若い奴は特にな」と公爵も頷く
「私はそんなお馬鹿さんに出会いましたの」
「ひどいはねっ返りは -もっと盗ってやればいいのにーってけしかけたんだ」
「ジョルジアナが育つにつれ そのお馬鹿さんも慎重になりましたけれど できれば自分の娘の婿にはこれが続けられそうな
腕の立つ人間をと そのお馬鹿さんは考えたのです」
「熟考して選んだつもりが その人間性を見誤った 旧体制側の身分に固執する人間だった伯爵は」
「そして父親のしていた事を知らないはずの娘は 父親と同じ考えで行動している人間を好きになった」
「僕は父から 父以前にも弱い立場の人間を迫害する連中を罰していた人間がいたという事は聞いています
それが公爵であったとー」
意外な打ち明け話に若い男は 自分の父親が義賊であったと認めてしまっていた
「これを受けとってほしい 志を継ぐ者として」
公爵は一本の杖を若い男に見せる
杖の握りの何処かを押すと 抜けて剣が出て来る
いわゆる仕込み杖なのだった
「そしてね 時々会いに来てちょうだい
無事な姿を見せてちょうだい
ここはあなたの家ですよ」
その地方には昔から謎の義賊の伝説がある
ひそかに伝えられ続けている
非道な行いをする者は悪行の報いを受けると
その義賊は 嘘かまことか つば広の黒い帽子を被り 顔は仮面で隠し 闇のように広がる黒いマントを翻し上から下まで黒ずくめ
そんな姿が粋に似合うのだと
「悪党め お前を許しはしない!」
彼は闇を切り裂くように現れて消える
黒い亡霊のように