その家を一目で気に入ったのは妻だった
隣人トラブルでマンション暮らしに疲れた妻は「何処か知らない場所で暮らしたい」と言い出した
マタニティ・ブルーかと思ったが わたしも職場の人間関係や仕事のノルマに疲れ
心機一転もいいかと暮らす場所探しをする事となった
名前を聞いた事も無かった田舎
移住するなら様々な支援をしてくれる
住む家もこちらに選ばせてくれる
夢のような話であったのだ
田舎の役場の人は親切で誰もが笑顔
妻はそこがすっかり気に入った
前庭が広いからーと早くも計画を立てる
マンションの共有の花壇とは違う
自分の好きな季節の花を植えられるのだと
久しぶりに見る楽しそうな顔だった
思いのほか学校も近い
「いい事づくめね」と妻が笑う
わたしは役場に勤めることとなった
「若い人が来てくれるのは有難い」と喜んでもらえると わたしも働いていて嬉しい
街で暮らした頃 青い顔になってしまっていた妻は元気になった
「この家でなら安心して産めるわ」とまで言い出す始末だ
好条件を疑うべきだっただろうか
明るい家
縁側 廊下 続きの和室
広い庭
親切な人々
なのに いつからか わたしは不安を覚えるようになっていた
まるで観察されているような
その家に住んで半年を過ぎた頃から わたしは息苦しさを覚えるようになってきた
これは一体何だろう
表現できない
妻は元気だ
初めての出産にも不安を抱いていない
わたしだけが邪魔者のような
誰にとって?
ーソレハ オマエダヨー
お前だよーと声が聞こえてくる
頭の中に響く
「あなた顔色悪いわよ 疲れているんじゃない」
優しい笑顔で妻が気遣ってくれる
「大丈夫だよ 君こそ予定日近い 大丈夫か」
とびきりの妻の笑顔
わたしは何も言えない
妻はこの家がとても気にいっているのだ
ーソウ オマエデハナイー
頭の中に声がする
わたしはどうなっているのだろうか
頭の中に響く声
わたし わたしは
もうすぐ父親になる
幸せな男だ そのはずだ
何の心配もない
ーイラナイヨ モウ フヨウヒンダヨー
ーダカラ シマツシテアゲヨウー
=============================
=============================
「いい青年だったんだけどな」
「仕方ない あの家が気に入ったのは奥さんの方だったし」
「奥さんは出産近かったな
ご主人は出張に行ってもらったことにしよう
ご主人は働いている 給料は届く
奥さんに生活の心配はない」
「そう 奥さんに出て行かれてはあの家が怒る」
「家が選んだ人間が住んでいれば 悪い事は起こらない
家が地域を守ってくれる」
=================================
==================================
わたしは家に閉じ込められた
そこから出られない
声は言う
イエダケデイルコトニアキタノダ
アノアカンボウトナリ ソノカラダヲカリテ
コノヨニデルノダ
ヒトトシテウゴクカラダヲモツ
トテモ タノシミダ
隣人トラブルでマンション暮らしに疲れた妻は「何処か知らない場所で暮らしたい」と言い出した
マタニティ・ブルーかと思ったが わたしも職場の人間関係や仕事のノルマに疲れ
心機一転もいいかと暮らす場所探しをする事となった
名前を聞いた事も無かった田舎
移住するなら様々な支援をしてくれる
住む家もこちらに選ばせてくれる
夢のような話であったのだ
田舎の役場の人は親切で誰もが笑顔
妻はそこがすっかり気に入った
前庭が広いからーと早くも計画を立てる
マンションの共有の花壇とは違う
自分の好きな季節の花を植えられるのだと
久しぶりに見る楽しそうな顔だった
思いのほか学校も近い
「いい事づくめね」と妻が笑う
わたしは役場に勤めることとなった
「若い人が来てくれるのは有難い」と喜んでもらえると わたしも働いていて嬉しい
街で暮らした頃 青い顔になってしまっていた妻は元気になった
「この家でなら安心して産めるわ」とまで言い出す始末だ
好条件を疑うべきだっただろうか
明るい家
縁側 廊下 続きの和室
広い庭
親切な人々
なのに いつからか わたしは不安を覚えるようになっていた
まるで観察されているような
その家に住んで半年を過ぎた頃から わたしは息苦しさを覚えるようになってきた
これは一体何だろう
表現できない
妻は元気だ
初めての出産にも不安を抱いていない
わたしだけが邪魔者のような
誰にとって?
ーソレハ オマエダヨー
お前だよーと声が聞こえてくる
頭の中に響く
「あなた顔色悪いわよ 疲れているんじゃない」
優しい笑顔で妻が気遣ってくれる
「大丈夫だよ 君こそ予定日近い 大丈夫か」
とびきりの妻の笑顔
わたしは何も言えない
妻はこの家がとても気にいっているのだ
ーソウ オマエデハナイー
頭の中に声がする
わたしはどうなっているのだろうか
頭の中に響く声
わたし わたしは
もうすぐ父親になる
幸せな男だ そのはずだ
何の心配もない
ーイラナイヨ モウ フヨウヒンダヨー
ーダカラ シマツシテアゲヨウー
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「いい青年だったんだけどな」
「仕方ない あの家が気に入ったのは奥さんの方だったし」
「奥さんは出産近かったな
ご主人は出張に行ってもらったことにしよう
ご主人は働いている 給料は届く
奥さんに生活の心配はない」
「そう 奥さんに出て行かれてはあの家が怒る」
「家が選んだ人間が住んでいれば 悪い事は起こらない
家が地域を守ってくれる」
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わたしは家に閉じ込められた
そこから出られない
声は言う
イエダケデイルコトニアキタノダ
アノアカンボウトナリ ソノカラダヲカリテ
コノヨニデルノダ
ヒトトシテウゴクカラダヲモツ
トテモ タノシミダ