うざね博士のブログ

緑の仕事を営むかたわら、赤裸々、かつ言いたい放題のうざね博士の日記。ユニークなH・Pも開設。

福岡ハカセのエッセイ

2011年04月22日 06時22分00秒 | 活字中毒の日々、そして読書三昧
 
 今は政治家として世評高いというか毀誉褒貶のある新都知事の石原慎太郎であるが、この人の小説は実はあまり現代文学や文壇の中では評価されていない。ミーハー好みの‘太陽の季節’でデヴューしたように通俗な「風俗小説」?をしばらく書いてきた。その後、一時は日蓮宗に興味を持ったことがあるが、内容についてはもうひとつ受けない、あるのは創作意欲だけが満々のところ。いろんな作品や文章を書き世に発表している。過去に国政に参加するも主張のみ先鋭化して、大きな働きもせずして、相変わらず人気先行の保守系政治家だった。そして思うのだが、政治上の支持者はその小説を読んでいないのではないかと推量する。
 さて、その次男坊である石原良純はテレビに出てすっかり有名人入りした。そして実はこの人が昨年頃まで、「週刊新潮」にエッセイを連載していた。わたしは、その当時、御子息のなかでは、この子供が親の血を受け継いでいるのかなと思ったものである。それを読むと、随分と端整に文章をまとめているなと、少し感心した。言いたいことが読後感として残らないが、ソツのない構成でセンスがありそうだ。しかしわたしには、この文章があまり評判を呼ばないのが不思議であった。
 ところで、先日は、福岡ハカセ(福岡伸一:分子生物学者、青山学院大学教授)の‘パラレルターンパラドックス’というコラムで「週刊文春」に連載中の文章を読み感心してしまった。 2011.4.7号の題は“サクラ咲く”であるが、よく知っていることはもちろんだが、こんなにわかりやすく文章で表現できることにびっくりした。科学エッセイに分類されるのだろうが、なめされた日常の口語体で専門用語をあまり使わず、ひらがな主体の短文で接続語や副詞を用いてつないでいく文だが、明瞭に言いたいことがわかり、文意を読者に想像させ理解させてくれるのだ。
 ここに、そのなかの一文を引用する。

 『植物の芽の先、いちばん細胞分裂が盛んな部分を生長点という。青葉茂れるとき、生長点は盛んに葉っぱを作り出し、光合成を行う。しかし生長点のいくつかの細胞は、花を作るため特別な分化を果たす。分化とは細胞の専門化のこと。花を作るためのもとになる細胞群を「花芽」という。形成された花芽は、そのままいったん成長を止めて休眠状態に入る。秋から冬のあいだ、花芽はじっと寒さに耐えながらその寒さの数を数えている。
 ここで一定期間、一定量の低温にさらされることが重要で、このプロセスを経て初めて花芽が再活性化される。だから暖冬で寒さが中途半端だったり、一年中暖かいところではサクラはきれいに咲けない。』

 たまたま、この題材がわたしの専門領域にリンクする内容だったのだ。四季の変化によるサクラという樹木の開花にいたる生理現象が主題なのだが、こんなふうに記述できるのは完璧に植物学の基礎を把握してて日ごろの自然観察が行き届いていることを示す。bookishな知識では、こうはいかない。文学作品的な批評になぞらえて言えば、巧みな構成による文章力の持ち主となるだろうが、なかなかのものである。現職は大学教授だそうだが、日頃よく見る、高学歴の学者の著作物、論述文、研究論文にありがちな持って回った文飾の多い長文とは似ても似つかない。何を言いたいのか分からない悪文が多いのだ。それは、たぶん、ロジックや概念規定や観念にとらわれてのことだろう。通常は下手な翻訳文のように欧文脈をこなしきれず奇妙な日本文が多いのだ。
 ここには簡潔にして、無駄な表現、修飾がない。わたしには、福岡ハカセ、いやはや後生恐るべし、との印象を受ける。
   
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

こちらも・・・

blogram投票ボタン