ようやく黒い演奏が、すんなりと体に馴染む季節になったようです。
今日も今朝からファンキー&グルーヴィンな音を体が要求する雰囲気で、仕事に向かう車の中では、これを聴き狂いました――
■Face To Face / Babyface Willette (Blue Note)
ジャズオルガンの世界にはジミー・スミスという大名人がいるので、後発のプレイヤーは、どんなに頑張っても旗色が悪くなります。
それゆえに、ジョン・コルトレーンの世界を追求してみたり、ファンクの世界に流れてみたり、はたまたモロR&Bへ回帰してみたり、様々なスタイルが模索されましたが、もっと素直に! という雰囲気を濃厚に漂わせてファンを魅了したのが、ベビィフェイス・ウィレットです。
この人はシカゴ辺りのローカル・ミュージャンで、ピアノやオルガンの弾語りでマイナーレーベルにも録音を残しているらしいのですが、とにかく本場ニューヨークへ出てきたのが1960年秋頃だと言われています。
それはルー・ドナルドソン(as) の手引きもあったらしく、忽ちブルーノート・レーベルと契約してのレコーディングセッション参加は、その実力が評価された証でしょう。
もちろん当時バリバリの看板だったジミー・スミスに続く、オルガン界の新スタアという位置付けですが、ベビィフェイス・ウィレットは、よりソウル度の高いフィーリングが持ち味です。
このアルバムは、多分、本格的なリーダー盤としては最初のLP企画だと思われますが、製作者側は前述したように、まずルー・ドナルドソンやグラント・グリーンのセッションに起用して、その資質を見極めていたようです。
ですから集められたメンバーは、何の違和感も無く、ベビィフェイス・ウィレットの音楽性に付き合える者ばかりで、、名演を生み出したのもムベなるかな! 1曲を除いて全てがオリジナルというあたりも、気合が入っています。
録音は1961年1月30日、メンバーはベビィフェイス・ウィレット(org) 以下、グラント・グリーン(g)、ベン・ディクソン(ds)、そしてフレッド・ジャクソン(ts) となっています――
A-1 Swingin' At Sugar Ray's
アップテンポのブルースで、もちろんR&B感覚が満点です。
ベビィフェイス・ウィレットのオルガンからは分かり易いフレーズばかりが溢れ出し、もちろんその中にはジミー・スミスのリックも含まれていますが、けっこうトリッキーな音使いがあったりして、飽きさせません。
またグラント・グリーンは単音弾きのアドリブソロに加えて、左チャンネルで聞かれるサイドギターとしてのキザミも楽しいところ♪
そして満を持して登場するテナーサックスのフレッド・ジャクソンは、初っ端から馬力全開のブッ飛ばしです! この人はジャズというよりもR&B畑で活躍していたらしいのですが、そのツボを押さえたブローは魅力満点です。
しかもそのバックでは、要所でベビィフェイス・ウィレットが自己主張! 4分目辺りの暴れは痛快です♪
A-2 Goin' Down
一転して、これはもう、お約束のスローブルース大会です。
グラント・グリーンとペン・ディクソンのビートの刻みも逞しく、ベビィフェイス・ウィレットは真っ黒なフレーズを出しまくり! それはスタッカートを巧みに使ったタメとツッコミで、黒人音楽好きを狂喜乱舞させるのです。ツタタタタッ、と突っ込んで、次の瞬間、ヒィ~ッと泣くオルガンは、もう、最高です。
そして次に出るフレッド・ジャクソンが分かっているというか、これまたR&B丸出しで、最初の柔らさも好ましく、3分38秒目と4分18秒目からのキメのフレーズは、もちろんスタッカートを使ったものですから、グッときます♪ しかも途中には、ご丁寧にジョン・コルトレーンのフレーズまで出してしまうのです。
またグラント・グリーンも、相当に過激なアタックを聞かせてくれます。
A-3 Whatever Lola Wants
出たっ! 下世話なキャバレームードがたっぷりの名曲名演です。
あぁ、このメロディ展開の妙なんか、一緒に口ずさんで恥かしくなるほどのアナクロ感覚♪ ベン・ディクソンの残響音が印象的なドラムスも良い感じです。
もちろんアドリブパートではフレッド・ジャクソンが呻き泣き、グラント・グリーンは例の針飛びフレーズで応戦、そしてベビィフェイス・ウィレットがジワジワッとくる歌心を披露します。
しかも全員がアクセントの付けどころを心得ているので、必要以上にクサミがありません。そして適度なスピード感がブルーノートならではの演奏になっています。さあ、皆さん、ご一緒に踊りましょう♪
B-1 Face To Face
アルバムタイトル曲は、ズンドコ&ファンキーなゴスペル・ハードバップです。
まずベン・ディクソンの擬似ドドンパのピートが心地良く、フレッド・ジャクソンのテナーサックスからは、これ以上無いほどの楽しいフレーズが連発されていきます♪ あぁ、このウネリ、この歌心、そしてタメとツッコミは、ひとつの芸術でしょう。
もちろん、そのあたりはベビィフェイス・ウィレットも充分心得ています。全く良いフレーズの洪水で、リズム的な興奮まであるんですから、たまりません。
そしてやっぱりこの人! グラント・グリーンがバリバリと弾きまくれば、その場は完全に黒人音楽の楽しさに満たされるのでした♪
B-2 Somethin' Strange
これまた日活アクションを連想してしまうゴッタ煮のブルースです。
なにしろ初っ端から埃っぽいような合奏があって、ベビィフェイス・ウィレットのアドリブソロに突入しますが、ここでのフットペタルでのベースのグルーヴが強烈です。もちろんアドリブそのものもソツが無いどころか、弾くほどにエグイ雰囲気が溢れてきます、
それはグラント・グリーンとても同じことですが、なんとバックで伴奏するオルガンの方が目立ってしまうという恐ろしさ!
そしていよいよ登場するフレッド・ジャクソンは、全く期待どおりの大活躍で場を盛り上げています。音色も逞しく、あぁ、この人とティナ・ブルックス(ts) のバトル盤が作られていたらなぁ……、と無いものねだりをしてしまいますねぇ。
B-3 High`N Low
オーラスは、勢いと哀愁が同時進行するハードバップですが、黒っぽい中にもソフトな感覚の滲みが都会的♪ これはベビィフェイス・ウィレットの好ましい資質だと思います。
フレッド・ジャクソンも気持ち良くアドリブしていますし、グラント・グリーンもほどよく肩の力が抜けた好演です。
ということで、これはなかなか黒っぽい演奏で、なによりの魅力は素直なR&B感覚でしょう。つまり楽しく分かり易いジャズなんで、本当に踊りだしたくなる瞬間が多々あります。
ですからジャズ喫茶全盛期の我国では、ブルーノート製作であるにも関わらず無視されていたアルバムです。それが今日、ちゃんとCD化されているのは、イギリスを中心とした「ジャズで踊ろう」ブームのおかげです♪
ちなみに私はグラント・グリーン蒐集の過程でこれに辿り着きましたが、1980年代では高嶺の花どころか、幻中の幻というブツで、実は初めて聴いたのが、イギリス人コレクターから貰ったカセットテープのコピーでした。そしてもちろん、1回聴いて忽ち虜の愛聴作品となり、現在では車に常備のCDで聴きまくりというわけです。
本当に楽しいジャズですよ♪