仕事がゴッタ煮状態で、身動きが取れなくなっていますが、こういう時に限ってジャズモードを身体が欲するのです。
そこで本日は、ちょっと新しめの愛聴盤を――
■Eugene Pao & Mads Vinging Trio (Stunt)
本日の主役=ユージン・パオは香港生まれでアメリカ育ちのギタリストです。その活動は決してジャズ一筋では無いようですが、もちろんジャスを演奏させても超一流という証明が、このアルバムです。
録音は2001年6月26~28日、メンバーはユージン・パオ(g)、Olivier Antunes(p)、マッズ・ヴィンディング(b)、アレックス・リール(ds) となっていますが、まず、なによりも演目が魅力です――
01 Witch Hunt
ウェイン・ショーター(ts) が書いたモードの名曲です。
ここでの演奏はオリジナルの味を大切にしたミステリアス&ハードな雰囲気で、ユージン・パオは単音弾き、オクターブ奏法、コード弾きと自在なテクニックで、全く間然することのない正統派のジャズギターを聴かせてくれます。
そして個人的に気に入ったのが、フランス生まれの若手ピアニストである Olivier Antunes で、センスの良さと的確なテクニックは素晴らしく、ジャズっぽさ真っ只中の演奏を披露しています。
快適な4ピートの真髄を送り出しているドラムスとベースは、もちろん1970年代のネオパップ期に頭角を現し、今日まで活動しているベテランコンビです♪
02 Recordame
ジョー・ヘンダーソン(ts) が書いた、これも1960年代ジャズの名曲です。
ここでは、そのキモであるジャズロックのノリを、如何にも新主流派というハードなものに変換し、また原曲の楽しさを損なわずに聴かせてくれます。
アドリブ先発はマッズ・ヴィンディングの豪快なベースソロ、次いでユージン・パオの流れるような、そして温か味に溢れたギターが躍動します。
そして、Olivier Antunes が、また素晴らしいんですねぇ~♪
03 Infant Eyes
おぉ、これこそモードジャズの極北という、ウェイン・ショーターが書いた永遠の名曲です!
ユージン・パオは、それを生ギターで静謐に演奏していくのですから、聴いている私は、いつもジャズの深遠を覗いてしまったかのような、不思議な満足感に浸ってしまいます♪ それはテーマメロディを素直に弾いているだけなんですがっ!
もちろんアドリブも強烈です。
また、Olivier Antunes がビル・エバンス~ハービー・ハンコック系をモロ出しにした素晴らしさで、憎めないですねぇ~♪
04 All Of You
これも生ギターを使って、有名スタンダード曲を素直に演奏しています。
ここではリズム隊のマッズ・ヴィンディング・トリオが素晴らしい出来で、ピアノ、ベース、ドラムスのインタープレイが本当に嫌味の無い好演だと思います。
そしてユージン・パオは、かなりアグレッシブなフレーズと過激なノリを展開しますが、リズム隊が鉄壁なので、安心感があります。
う~ん、それにしてもこのギタリストは、物凄いテクニックと歌心を持っていますねぇ~♪ 随所に出る爆裂フレーズが破綻しないのですからっ!
05 Alice In Wonderland
ジャズ・バージョンではビル・エバンスの演奏があまりにも有名ですから、ここでは、そのギター・カルテット的な展開を期待して、全くそのとおりの仕上がりになっています。
なにしろテーマをリードする Olivier Antunes のピアノがモロ! さらにベースとドラムスが、こういうのをやるのが、本当に楽しくて仕方が無い雰囲気ですので、悪いわけがありません。けっこう過激な展開まで聴かせてくれます。
肝心のユージン・パオは、またまた生ギターで驚異のアドリブを聴かせてくれますよっ! 本当にジャズそのものの楽しさが、たっぷりと味わえます♪
そして大奮闘する Olivier Antunes にご注目!
06 Blame It On My Youth
古いスタンダード曲ですが、近年はキース・ジャレット(p) あたりで火がついた人気曲です。イノセントな雰囲気が素敵なんですねぇ~♪
テーマをリードするのはマッズ・ヴィンディングのピチカートでしょうか? 途中からユージン・パオの生ギターがそれを引き継いでいくあたりの緊張感と静謐な雰囲気は、自然体の魅力が満点です。
しかし Olivier Antunes のピアノは若気の至りというか、狙いすぎなんですが、この人は憎めませんねぇ~。寸前でユージン・パオが素晴らしいアドリブで助け舟を出すあたりが、ジャズの醍醐味かもしれません。最後の最後に出るオクターブ奏法が、地味にグッときます。
07 Dolpin Dance
ハービー・ハンコック(p) が作った、これも1960年代ジャズの名曲ですが、生ギター中心の演奏にも違和感がありません。
ここではアレックス・リールのドラムスに存在感があり、難解なベクトルに向かい気味のメンバーを、しっかりと4ビートに?ぎ止めているようです。ただし、その分だけ自分が暴れているわけですが……。
08 Bud Powell
チック・コリア(p) がバド・パウエル(p) に捧げて書いた、新世代の楽しいビバップ曲です。
ユージン・パオはエレキを使いますが、その暖かい音色はあくまでも正統派でありながら、随所でロック的な細かいニュアンスが織込まれていて、流石だと思います。もちろん歌心は天下一品! 思わずコピーしたくなる美味しいフレーズが、これでもかと飛び出します。もっとも簡単に真似出来る世界ではないのですが……。
09 My Foolish Heart
オーラスは、またまたビル・エバンスの世界か!?
と期待してしまう演目ですが、期待を裏切っていません♪
ユージン・パオは生ギターでマッズ・ヴィンディングと絡み合いながらテーマを綴るあたりは「Blame It On My Youth」と同じ手なんですが、それゆえに安心感があります。
また Olivier Antunes が思いっきりビル・エバンスをやってくれますから、なかなか気持ちの良いヌルマ湯状態♪ 純ジャズ的には、いけない事かもしれませんが、気持ち良いんですから、ご容赦を♪
ということで、あまりにもイージーな作りと疑うなかれ! これは聴かないとソンをする1枚だと思います。
私は3年ほど前に入手したのですが、これも今日まで座右のアルバムとして、ジャズに嫌気がさした時に聴いては、独り悦にいっています。
何よりもユージン・パオというギタリスト、また Olivier Antunes というビアニストを知った事が大きく、特に後者は私のお気に入りとして、いろいろと音源を漁っています。
皆様には、ぜひとも聴いていただきたい名演盤です。