世間は連休でも、私は休まず仕事に追われ……。というか、いろんなスケジュールが入りっぱなしなんです。
ところでタイへ出張させた若い者の話では、新しくなったタイの飛行場は、預けた荷物がなかなか出てこなくて、延々と待たされるとか……。クーデター直後とはいえ、日本からの観光客も多いようです。
ということで、本日の1枚は――
■Stan Getz & Bill Evens (Verve)
ジャズに限らず、マイナーレーベルが林立するアメリカ音楽産業では、自ずと独自のカラーを持った会社が注目されます。
そして例えばそれがジャズならば、「ヴァーヴ」と言えば夢の共演でしょう。
このアルバムはその最たるもので、テナーサックスとピアノにおいて最高の白人ジャズプレイヤー2人が主役なんですから、その存在を知った瞬間から、もうワクワクものです。
しかし、これはリアルタイムで発売されたブツでは無く、セッションから9年後の1973年になって、ようやく世に出た、所謂「お蔵盤」でした。
う~ん、何故だっ!?
録音は1964年5月5~6日、メンバーはスタン・ゲッツ(ts)、ビル・エバンス(p)、エルビン・ジョーンズ(ds) は不動、そして5日にリチャード・デイビス(b)、6日にロン・カーター(b) が参加という、今では完全に夢の顔合わせです――
A-1 Night And Day (1964年5月6日録音)
コール・ポーターの名作で、スタン・ゲッツもビル・エバンスもスタンダード曲の解釈は得意中の得意ですから、全く問題無い演奏と思いきや、初っ端からエルビン・ジョーンズのポリリズムに煽られて、2人とも妙に肩に力が入った雰囲気だと思うのは、気のせいでしょうか?
もちろんテーマをリードするスタン・ゲッツは軽やかですし、先発でアドリブを披露するビル・エバンスも、ブレイクを織込んで十八番のフレーズを連発しているのですが……。
つまりエルビン・ジョーンズ&ロン・カーターという、黒人強力リズム隊の存在が強すぎるが故に、全体がチグハグのような気がしています。
ただし凡演ではありません。迫力も歌心もジャズを聴く喜びも、確かにあるのです。
A-2 But Beautiful (1964年5月6日録音)
これは、良いですねっ♪
スタン・ゲッツ&ビル・エバンスに私が望むところが存分に発揮されています。
それは夢見心地の歌心♪
黒人リズム隊も的確なサポートに撤しています。
A-3 Funkallero (1964年5月6日録音)
ビル・エバンスが書いた躍動的なハードバップ曲です。
ところが張り切りすぎて、ビル・エバンスがやや、上ずっている感じがします。
しかしスタン・ゲッツは快調そのもので、アドリブが止まらない荒っぽさです。そしてそこをエルビン・ジョーンズに突っ込まれ、うろたえながらも我を通す潔さが素敵ですねぇ~。終盤は、ちょっとヤケ気味ですが♪
B-1 My Heart Stood Still (1964年5月5日録音)
何の気負いも無い演奏が逆に好き勝手になってしまったような、纏まりの無い仕上がりです。つまり荒っぽいのです。
なにしろスタン・ゲッツのアドリブソロに続いて出るはずのビル・エバンスが、アッと躓いてしまい、リチャード・デイビスのウォーキングが延々と行ってしまいますから! それでも何とか体勢を整えたビル・エバンスは奮闘しますが、一度トチッたものは修整不可能のキズとなって残ります。
それをジャズの面白さと楽しめるならば、最高の名演でしょう。
個人的には投げやりな仕上がりだと思いますが、終盤でのスタン・ゲッツとビル・エバンスの対位法的な絡みには、興奮させられます。エルビン・ジョーンズも奮闘していますねっ♪
B-2 Melinda (1964年5月5日録音)
なんとも雰囲気満点のスロー曲で、情緒たっぷりのスタン・ゲッツに優しさ溢れるビル・エバンスの存在が、最高に上手くいった名演だと思います。あぁ、この歌心♪
もちろんリチャード・デイビスは縁の下の力持ちですし、エルビン・ジョーンズがブラシで粘っこいビートを送りこんでいるあたりも、最高です。
B-3 Grandfather's Waltz (1964年5月5日録音)
タイトルどおり、とても愛らしいワルツ曲で、こういうものならビル・エバンスは俺にまかせろっ! 初っ端から無伴奏でテーマを巧みに提示し、黒人リズム隊の力強さを引き出して、スタン・ゲッツにバトンを渡します。
するとクールで暖かいテナー・サックスが絶妙の歌心でテーマを変奏しつつ、それよりも美しいアドリブメロディを出してしまうのですから、もう最高です。もちろん思い切った跳躍フレーズも入れ込んで、あくまでも甘さに流れない姿勢も聴かせるのです。
またビル・エバンスも負けじと快演ですが、ここはスタン・ゲッツに軍配が上がるのかもしれません。
ということで、何となくお蔵入りした理由が感じられる演奏集です。
しかし密度の濃さは天下一品! 荒っぽい中にも、それゆえにエキサイトさせられる場面が多々ありますし、スロー曲の解釈と展開は余人の真似出来る境地ではありません。
こういう演奏がリアルタイムで発売されなかったという、当時のジャズ界の充実度は、やはり今では夢の良き時代だったのです。
ちなみに現行CDには、さらに没テイクのオマケ付きですから、そのあたりの妄想を逞しくして聴くのも、ジャズの楽しみだと思います。