OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

夢の対決

2006-10-07 18:13:51 | Weblog

世間は連休でも、私は休まず仕事に追われ……。というか、いろんなスケジュールが入りっぱなしなんです。

ところでタイへ出張させた若い者の話では、新しくなったタイの飛行場は、預けた荷物がなかなか出てこなくて、延々と待たされるとか……。クーデター直後とはいえ、日本からの観光客も多いようです。

ということで、本日の1枚は――

Stan Getz & Bill Evens (Verve)

ジャズに限らず、マイナーレーベルが林立するアメリカ音楽産業では、自ずと独自のカラーを持った会社が注目されます。

そして例えばそれがジャズならば、「ヴァーヴ」と言えば夢の共演でしょう。

このアルバムはその最たるもので、テナーサックスとピアノにおいて最高の白人ジャズプレイヤー2人が主役なんですから、その存在を知った瞬間から、もうワクワクものです。

しかし、これはリアルタイムで発売されたブツでは無く、セッションから9年後の1973年になって、ようやく世に出た、所謂「お蔵盤」でした。

う~ん、何故だっ!?

録音は1964年5月5~6日、メンバーはスタン・ゲッツ(ts)、ビル・エバンス(p)、エルビン・ジョーンズ(ds) は不動、そして5日にリチャード・デイビス(b)、6日にロン・カーター(b) が参加という、今では完全に夢の顔合わせです――

A-1 Night And Day (1964年5月6日録音)
 コール・ポーターの名作で、スタン・ゲッツもビル・エバンスもスタンダード曲の解釈は得意中の得意ですから、全く問題無い演奏と思いきや、初っ端からエルビン・ジョーンズのポリリズムに煽られて、2人とも妙に肩に力が入った雰囲気だと思うのは、気のせいでしょうか?
 もちろんテーマをリードするスタン・ゲッツは軽やかですし、先発でアドリブを披露するビル・エバンスも、ブレイクを織込んで十八番のフレーズを連発しているのですが……。
 つまりエルビン・ジョーンズ&ロン・カーターという、黒人強力リズム隊の存在が強すぎるが故に、全体がチグハグのような気がしています。
 ただし凡演ではありません。迫力も歌心もジャズを聴く喜びも、確かにあるのです。

A-2 But Beautiful (1964年5月6日録音)
 これは、良いですねっ♪
 スタン・ゲッツ&ビル・エバンスに私が望むところが存分に発揮されています。
 それは夢見心地の歌心♪
 黒人リズム隊も的確なサポートに撤しています。

A-3 Funkallero (1964年5月6日録音)
 ビル・エバンスが書いた躍動的なハードバップ曲です。
 ところが張り切りすぎて、ビル・エバンスがやや、上ずっている感じがします。
 しかしスタン・ゲッツは快調そのもので、アドリブが止まらない荒っぽさです。そしてそこをエルビン・ジョーンズに突っ込まれ、うろたえながらも我を通す潔さが素敵ですねぇ~。終盤は、ちょっとヤケ気味ですが♪

B-1 My Heart Stood Still (1964年5月5日録音)
 何の気負いも無い演奏が逆に好き勝手になってしまったような、纏まりの無い仕上がりです。つまり荒っぽいのです。
 なにしろスタン・ゲッツのアドリブソロに続いて出るはずのビル・エバンスが、アッと躓いてしまい、リチャード・デイビスのウォーキングが延々と行ってしまいますから! それでも何とか体勢を整えたビル・エバンスは奮闘しますが、一度トチッたものは修整不可能のキズとなって残ります。
 それをジャズの面白さと楽しめるならば、最高の名演でしょう。
 個人的には投げやりな仕上がりだと思いますが、終盤でのスタン・ゲッツとビル・エバンスの対位法的な絡みには、興奮させられます。エルビン・ジョーンズも奮闘していますねっ♪

B-2 Melinda (1964年5月5日録音)
 なんとも雰囲気満点のスロー曲で、情緒たっぷりのスタン・ゲッツに優しさ溢れるビル・エバンスの存在が、最高に上手くいった名演だと思います。あぁ、この歌心♪
 もちろんリチャード・デイビスは縁の下の力持ちですし、エルビン・ジョーンズがブラシで粘っこいビートを送りこんでいるあたりも、最高です。

B-3 Grandfather's Waltz (1964年5月5日録音)
 タイトルどおり、とても愛らしいワルツ曲で、こういうものならビル・エバンスは俺にまかせろっ! 初っ端から無伴奏でテーマを巧みに提示し、黒人リズム隊の力強さを引き出して、スタン・ゲッツにバトンを渡します。
 するとクールで暖かいテナー・サックスが絶妙の歌心でテーマを変奏しつつ、それよりも美しいアドリブメロディを出してしまうのですから、もう最高です。もちろん思い切った跳躍フレーズも入れ込んで、あくまでも甘さに流れない姿勢も聴かせるのです。
 またビル・エバンスも負けじと快演ですが、ここはスタン・ゲッツに軍配が上がるのかもしれません。

ということで、何となくお蔵入りした理由が感じられる演奏集です。

しかし密度の濃さは天下一品! 荒っぽい中にも、それゆえにエキサイトさせられる場面が多々ありますし、スロー曲の解釈と展開は余人の真似出来る境地ではありません。

こういう演奏がリアルタイムで発売されなかったという、当時のジャズ界の充実度は、やはり今では夢の良き時代だったのです。

ちなみに現行CDには、さらに没テイクのオマケ付きですから、そのあたりの妄想を逞しくして聴くのも、ジャズの楽しみだと思います。

コメント (2)
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