世間は休み、私は仕事……!
はっきり言って、嫌になるっ!
自分の人生は、もっと楽しくて良いんじゃないかっ?
そんな激情モードでは、こういう尖がったアルバムが聴きたくなります――
■It's Time / Jackie McLean (Blue Note)
ジャッキー・マクリーンは、十代の頃からトッププレイヤーとして活躍した黒人アルトサックス奏者ですが、けっして世渡りが上手いタイプでは無いと思います。
なにしろ駆け出し時代から、マイルス・デイビス(tp) やチャーリー・ミンガス(b) といった、自分を高く評価してくれたリーダーと喧嘩してバンドを飛び出したり、アート・ブレイキー(ds) やケニー・ドーハム(tp) という、モダンジャズを作り上げた偉人と共演しながら、自分を曲げなかったという、頑固なんだか、我侭なんだか、ちょっと理不尽大王的な人かもしれません。
しかし、そのジャズに対する情熱や個性は圧倒的で、今日でもジャッキー・マクリーンを語る際には「青春」とか「熱血」がキーワードになるのです。
このアルバムは、そんなジャッキー・マクリーンが三十路を越えながら、なお熱い血潮の滾りを聞かせた傑作盤です。
録音は1964年8月5日、メンバーはジャッキー・マクリーン(as)、チャールス・トリバー(tp)、ハービー・ハンコック(p)、セシル・マクビー(b)、ロイ・ヘインズ(ds) というコワモテが揃っています――
A-1 Cancellation
いかにも黒人ジャズらしい熱気を伴ったモード曲で、刺激的なテーマにはロイ・ヘインズのシャープなドラムスと暗い情念を表出させたハービー・ハンコックのピアノが、絶妙のアクセントを付けています。
ジャッキー・マクリーンのアドリブは先鋭的なフレーズの連続ですし、チャールス・トリバーのトランペットはさらに突っ込んだエグミがたっぷりです。
ちなみに、このチャールズ・トリバーは当時大学を出たばかりの新鋭で、これが初レコーディングのようですが、そのスタイルはフレディ・ハバードと同根のエモーションに溢れ、既に完成されています。そしてこのアルバムでは、これを含めて3曲のオリジナルまで提供しているという、リーダの片腕的な存在感を示しているのです。
またハービー・ハンコックは、当時マイルス・デイビスのバンドレギュラーとして大活躍していましたが、ここでも実力を遺憾なく発揮! 自分のソロパートではロイ・ヘインズのドラムスと上手い掛け合いを演じています。
A-2 Das' Dat
なかなか楽しくファンキー色が強いジャッキー・マクリーンのオリジナルで、作者自らが、独自の音色を武器にして「泣き」の本領を発揮しています♪
またチャールス・トリバーも、お約束のファンキー・フレーズを吹いていますし、ハービー・ハンコックが、また素直に素敵なんですねぇ♪
こういう演奏を聴いていると前曲のツッパリは何だったんだぁ? と思ってしまいますが、これもまたジャズの味わい深いところだと思います。
A-3 It's Time
アルバムタイトル曲は、再びモード色に染まりきった過激な演奏になっています。
しかし基本がマイナー調ですから、ジャッキー・マクリーンが十八番の哀切のアドリブフレーズを連発しています♪
またチャールス・トリバーはフレディ・ハバードのフレーズを盗用している感がありますが、それでも何とか自己主張しようと悪戦苦闘している様が憎めません。
そしてハービー・ハンコックが、流石の素晴らしさです! 刺激的な伴奏とシャープなアドリブソロは、この当時のトップピアニストの面目躍如たるものでしょう。
それとセシル・マクビーの思索的なベースワーク、オカズが多くてメシが無いというロイ・ヘインズのドラムスも強烈です。
B-1 Revillot
曲タイトルの綴りから一目瞭然、チャールズ・トリバーのオリジナル曲で、つまりトリバーの逆綴りなんですねぇ♪ これがジャズ業界の、お約束です。
肝心の演奏はテーマ部分で変拍子が入るハードなものですが、アドリブパートは豪快な4ビートで、まずは作者本人が素晴らしいトンペットを聴かせてくれますし、背後で炸裂するロイ・ヘインズのドラムスも最高のスパイスになっています。
またジャッキー・マクリーンは必要以上に泣きませんが、図太いフレーズは流石の存在感ですし、ハービー・ハンコックが陰の主役という暴れを披露しています。
B-2 Snuff
これまた強烈な刺激に満ちたジャッキー・マクリーンのオリジナルです。
アップテンポでブッ飛ばす中にも全員の熱演で、暗い情念とか熱い想いが混濁していく様が表現されているようです。
特にチャールズ・トリバーは渾身の吹奏というか、その必死さに好感が持てます。
またハービー・ハンコック以下のリズム隊の纏まりも素晴らしく、ロイ・ヘインズだけ聴いていてもゾクゾクさせられます。
B-3 Truth
オーラスは、このアルバム中で唯一のスロー曲です。
作者のチャールズ・トリバーにとっては、かなりの自信作とみえて、以後、自分のセッションでは何度も取上げていますが、ここでの初々しさは本当に素敵です。
テーマをリードするトランペットに絡むジャッキー・マクリーンのアルトサックスの響きも奥深く、アドリブパートでは例の「泣き」を聴かせてくれますから、たまりません。
ということで、これはチャールズ・トリバーという新主流派バリバリのトランペッターのリーダー盤として出ても、全く違和感が無い仕上がりです。
しかしジャッキー・マクリーン色が薄いかと言えば、否としか答えられません。
つまり本当にウマが合ったんでしょうねぇ。そういう出会いがあると、仕事も上手くいくという、これはひとつの好例かもしれません。翌月にはもう1枚の共演盤「アクション(Blue Note)」が吹き込まれ、いっしょにライブの仕事もしていたそうです。
ただし、2人の共演は1965年末で終わっているが、残念でした……。
またセッション全体におけるリズム隊の素晴らしさは言わずもがなで、特にロイ・ヘインズのシャープなドラミングは大きな聞き物だと思います。ちなみにジャッキー・マクリーンは、自己のリーダーセッションでは、イモなドラマーは決して使わない人だと思います。
それにしても休みが欲しい……。
フリーに走るジャズメンの気持ちが分かるなぁ……。