あ~ぁ、なんだか慌しい1日でした。
しかもヤフオクは2連敗……。仕事もハードになってきましたし……。
そこで、変幻自在、ハードな対決盤を――
■Tenor Madness / Sonny Rollins (Prestige)
ジャズではテナーサックスの王様2人が対決した歴史的名盤!
と思い込んで、私はこれを買いました。まだジャズを本格的に聴き始めて、間もない頃です。
ところがっ! というのは皆様ご存知のとおりですが、けっこう、いろんなものが潜んでいるアルバムだなぁ……、と聴くほどに思います。
録音は1956年5月24日、メンバーはソニー・ロリンズ(ts)、レッド・ガーランド(p)、ポール・チェンバース(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds)、そして1曲だけ、ジョン・コルトレーン(ts) が加わっています――
A-1 Tenor Madness
これがアルバムのウリになっている、ソニー・ロリンズ対ジョン・コルトレーンの対決演奏です。
曲は快適なテンポのブルースで、タイトルは「Tenor Madness」と付けられていますが、実はビバップ時代から頻繁に演奏されていた通称「Royal Roost」とか「Rue Chaptal」と同じテーマメロディを持っていますから、おそらく発売時に後付したものでしょう。
ちなみに後年、ブレスティッジが発売したジャッキー・マクリーン(as) とジョン・ジェンキンス(as) の対決盤が「アルト・マッドネス」と命名されたのは、多分、このアルバムがヒットした所為かもしれません。
さて肝心の演奏は、ジョン・コルトレーンがアドリブ先発で、ギクシャク・ウネウネという、ハードバップ期特有のフレーズ展開が満載で、なかなか魅力的です。
ところが次に登場するソニー・ロリンズがウネリとヒネリが効いた余裕のノリを聴かせてしまいますからねぇ~♪ 前者が一途な想いならば、後者は天才の片思いというところでしょうか。
その2人を支えて煽るリズム隊は、ご存知、当時のマイルス・デイビスのバンドレギュラーでしたから、息はぴったりで素晴らしい快演です。特にポール・チェンバースは唯我独尊ながら、若さに似合わぬ協調性が見事♪
またフィリー・ジョーはフロントのテナーサックスとソロ交換を行いますが、これも余裕たっぷりでサッときりあげ、いよいよテナーサックスの饗宴が延々と続いていくのです。それは4小節交換の応酬!
気になる勝負の行方ですが、生硬に迫るジョン・コルトレーンをヒネリ倒すソニー・ロリンズという雰囲気でしょうか……。まあ、ロリンズの判定勝ちは否めないところですが、引分け再試合を希望したいところです。しかし結果的には、これが最初で最後の逢瀬となり、以降、ソニー・ロリンズは徐々にジョン・コルトレーンを意識せざるを得ない立場に追い込まれていくのです。
つまりジャズ・テナーサックスの主流がジョン・コルトレーンのスタイルに染まっていくのですが、それはそのスタイルが真似しやすいことを意味していると、私は思います。つまり、あの「シーツ・オブ・サウンド」の烈しい運指とタンギングは、練習次第でどうにでもなるのでは? フレーズを構成しているのは、スケール練習の果てに辿り着いたものという気もしています。
対してソニー・ロリンズのアドリブは感性重視というか、当に瞬間芸の極北でしょう。リズムに対する変幻自在のノリは、真似してやったらデッドコピーにしかなりません。
――等と不遜なことを書き連ねてしまいましたが、こういうハードバップ期のジョン・コルトレーンが、実は、私は大好きなのでした。
A-2 When Your Lovee Has Gone
ここからがソニー・ロリンズのワンホーン体制による演奏です。
この曲はミディアムテンポの歌物解釈としては、典型的なソニー・ロリンズ節が楽しめます。それはリズムとビートに対して自在にノッて聞かせる余裕のフレーズの連なりです。
しかし、流石は当時定評のあったリズム隊ですねぇ。ちゃんと鋭いツッコミを入れたり、短いながら各々のアドリブパートでは充実の極みをたっぷり♪
B-1 Paul's Pal
ソニー・ロリンズが書いた和みのハードバップで、タイトルどおり、ポール・チェンバースに捧げられたようです。
もちろん、そのベーシストは張り切ったのでしょう、伴奏、アドリブソロともに最高ですが、気負いが感じられないのも流石だと思います。
逆にレッド・ガーランドとフィリー・ジョーは、やや調子が出ていないような……。しかしソニー・ロリンズは、言わずもがなの名演です。
B-2 My Reverie
ソニー・ロリンズがテナーサックスの魅力を全開させるスロー曲です。
ふふふふふふふ~ぅ、というサブトーン、どっしり構えて、ジックリとテーマを変奏していく余裕の展開が何とも心地良いですねぇ。
B-3 The Most Beautiful Girl In The World
オーラスはソニー・ロリンズが十八番のワルツ~4ビートの展開で、極上のハードバップが演奏されます。
なにしろリズム隊が素晴らし過ぎですし、送り出される快適なビートを逆に引きずり回すようなソニー・ロリンズのアドリブには、初めて聴いた時、強烈な違和感がありました。特にレッド・ガーランドのアドリブが終わった直後からの猛烈なノリは、痛快至極! 何度聴いても飽きません。
またラストテーマを導くアドリブパートも眩暈がするほどの激しさです。こんな吹奏が出来るなんて、ソニー・ロリンズは本当の天才だと、聴くたびに思いしらせるのでした。
ということで、ジョン・コルトレーンの参加は1曲だけですが、それはたまたま現場のスタジオに本人が居たという、まあ偶然とされています。録音されたのも、セッションの一番最後らしいのですが、しかし、参加したリズム隊とジョン・コルトレーンは、同じマイルス・デイビスのバンド仲間ですし、この録音の前後にマイルス・デイビスとの仕事があったのかもしれません。
で、この夢の対決は1曲だけでは勿体無い、セッション全部がそうであったらなぁ……。という切望は、ジャズファン全てのものでしょう。
しかし冷静に聴いてみると、時期尚早というか、残念ながらここでのジョン・コルトレーンはソニー・ロリンズの引き立て役という感が強いと思いますが、どうでしょう?
それはもし、ここでの相手役がデクスター・ゴードンであったら? という妄想にも繋がります。
そしてジョン・コルトレーンは、この後もプレスティッジ、ブルーノート、リバーサイドの3大レーベルを中心に、大勢のテナーサックス奏者と対決の修羅場を踏んだ録音を残していくのですが、後年、レギュラーでは最初ワンホーンのバンドを組んだのも、さもありなん……。
それと不思議なのが、このセッションではレッド・ガーランドが十八番のブロックコード弾きを、ほとんど出していません。何故でしょう?
というように、私にとっては妄想・疑念が果てしないアルバムというわけです。