まったく仕事が忙しく、毎日、何人もの人に会い、シビアな話をしているわけですが、一番ストレスになるのは、昼飯時に仕事の話をしなければならない事です。
大体、その時間帯の私は、好きな音楽を鳴らしつつ、和んでいるのが日課ですが、そこに来客が予定されていると、迂闊なブツも聴いていられないという、ミエまではらなければなりません。
つまり下世話なハードバップとか、ドギツイR&B、ストーンズや昭和歌謡曲という私が一番好んでいるジャンルは、みっともないです! とネコ耳秘書に諫言されるというテイタラク……。
バカヤロー! 好きなもの聴いて、なんか悪いかよ~!
と怒鳴りつけたい気分ではありますが、やはり格好をつけなければならない日には、これを聴いています――
■Concorde / The Modern Jazz Quartet (Prestige)
ジャズは個人芸の競い合いなので、ロックのような役割分担の束縛が大きいグループという観念が希薄ですから、そもそもバンド名を持って活動しているグループは、ほとんどありません。
しかし、それゆえ逆に有名なのが、ジャズ・メッセンジャーズ(JM)とモダンジャズ・カルテット(MJQ)の2つでしょう。
特に後者はジャズばかりでなく、クラシックや現代音楽、さらにボサノバやロックの感覚までも貪欲に取り入れた演奏が、ジャズファン以外にも大ウケでしたし、タキシードでビシッと正装したメンバーのステージマナーの良さもあって、幅広い人気を得ていました。
このアルバムは、そんな彼等の人気を決定付けた名盤で、録音は1955年7月2日、メンバーはミルト・ジャクソン(vib)、ジョン・ルイス(p)、パーシー・ヒース(b)、コニー・ケイ(ds) という黄金期のレギュラーが初顔合わせとなっています――
A-1 Ralph's New Blues
ミルト・ジャクソンが書いたシンプルなブルースですが、テーマ部分はクラシックのフーガ調が取り入れられている芸の細かさで、こういうところにグループとしての存在感が顕著です。
しかしアドリブパートでは自由度が重んじられ、ジャズの真髄が追求されるのです。それはディープで静謐なファンキー感覚を撒き散らすミルト・ジャクソンであり、淡々とした間合いから黒い魂を覗かせるジョン・ルイスであり、墨絵のごとき濃淡が鮮やかなパーシー・ヒース、さらに地味ながら芯の強いコニー・ケイという、極限まで煮詰められた世界が展開されています。
A-2 All Of You
有名スタンダードをスローな展開で聞かせるカルテットは、「間」を大切にしながらも、繊細な歌心を持ってジンワリとした名演を作り出していきます。
なにしろ、これだけゆったりとしたテンポでありながら、決してダレ無い演奏からは、徐々に黒い感覚が滲み出してくるのですから、惹き込まれます。特にミルト・ジャクソンが繰り出す2分55秒からのキメのフレーズには、グッときますねぇ~♪
A-3 I Remember April
一転して早いテンポで演奏されるこの曲は、ビバップ時代からモダンジャズでは定番のスタンダードです。そして、それゆえにイモな演奏は完全に許されない世界が求められますから、ここでの急速バージョンは緊張感がいっぱいです。
流麗なミルト・ジャクソン、無駄な音を出さないジョン・ルイス、煩い寸前のコニー・ケイのシンバル、そして土台作りに腐心するパーシー・ヒースと、間然することの無い仕上がりが、当にハードバップ時代を代表する名演になっています。
B-1 Gershwin Medley
タイトルどおり、ガーシュインの曲ばかりが4つ、メドレーで演奏されています。
まず最初がベースソロで「Soon」、続く「For Me, For You, Forevermoer」はジョン・ルイスとミルト・ジャクソンの絡み、さらに「Love Walked In」はミルト・ジャクソンが全面に出ていますが、最後の「Our Love Is Here To Stay」はグループ全体の纏まりを聞かせようという意図がうかがえます。
全篇が落ち着いたスローな展開になっていますが、このジェントル感覚が人気の秘密のように思います。こんな演奏がホテルのラウンジで生演奏されたなら、下心のきっかけが掴めないカップルは大助かりでしょうねぇ……♪
B-2 Softly As In A Morning Sunrise / 朝日のようにさわやかに
このアルバムの目玉演奏で、ジャズ史的にも名演とされています。
ネタはモダンジャズでも多くの素晴らしいバージョンが残されているスタンダード曲ですが、ここではイントロとラストテーマの後に、バッハのカノンを用いたアレンジが施されているのがミソです。
そしてアドリブパートでは極めてハードパップな味が全開になるという、ミスマッチとアンバランスの妙が鮮やかさの極北です。全てが口ずさめるミルト・ジャクソンのアドリブフレーズ、調子の良さと奥深い味わいのジョン・ルイスが本当に最高で、もちろんバンド全体の落ち着いたグルーヴから発散される黒っぽさが、たまらないのでした♪
B-3 Concorde
短い曲ですが、クラシックをモチーフにバンド全体が集団アドリブを展開しつつ、ひとつの完成形に持っていく妙技が冴えた名演です。
こういう展開は、後々までMJQが十八番とする、その原風景が楽しめます。
ということで、クールでお洒落な演奏集なので、ほとんど定番化している作品ですが、完成度が高い分だけ、ここに収められた演奏はアドリブパートも含めて、ライブでもスタジオバージョンとなんら変わらない出来になるようです。
それはMJQというバンドが、高度なアレンジとリハーサルによって煮詰められた演奏を完成させていたからに違いなく、果たしてそれが自然発生的なグルーヴが求められるジャズか否かという議論までも引起こしますが、ここに聴かれるのは、間違いなくジャズそのものです!
ジャズは夜の音楽とか、よく言われますが、お昼のお茶の時間に聴いても素敵なアルバムなんで、私は重宝しています♪