秋の夜長は意外と短い!
歳を重ねる毎に、そんな風に感じていますが、とにかく大切にしたい和みの時間には、これを聴いています。気ままな暮らしは、あこがれです――
■Easy Living / Paul Desmond (RCA)
元祖ソフト&メローなアルトサックス奏者のポール・デスモンドが、RCAのに残した最後のアルバムです。
それゆえに録音時期が1963~1965年、幾つかのセッションからの寄せ集めで構成されているものの、全曲の相方が天才ギタリストのジム・ホール!
しかも何故かジム・ホールの出来が素晴らしく、ほとんどこの人のリーダー盤のような趣を成しています。穿った解釈をすれば、それゆえにお蔵になっていた演奏を集めたのかもしれません。
とにかく私は、自分のレコード棚のジム・ホールの場所に、このアルバムを入れるのが礼儀のような気がしています。
メンバーはポール・デスモンド(as)、ジム・ホール(g)、ジーン・チェリコ(b / 1963)、ジーン・ライト(b / 1964)、パーシー・ヒース(b / 1965)、コニー・ケイ(ds) です――
A-1 When Joanna Loved Me (1964年録音)
ジム・ホールが絶妙のイントロを作り、ポール・デスモンドが限りなくソフトな情感をこめてテーマを吹奏してくれるだけで、あたりは何とも言えない幸福感に満たされます。
あぁ、このもったいぶったような、お洒落な感覚が嫌味になっていないところが良いですねぇ~♪
そしてポール・デスモンドは、もちろん最高なんですが、ここでのジム・ホールは伴奏に、ソロに異常なほどの素晴らしさです。特に伴奏のコードチェンジとか、バリエーションが豊かだと思います。
A-2 That Old Feeling (1964年録音)
快適なテンポでテーマを吹奏するポール・デスモンド!
全て分かっているコニー・ケイのブラシが気持ち良い限りですが、アドリブパートでは無理にハードスイングしようとするバンドが、いじましい雰囲気です。
しかしジム・ホールが伴奏に加わると、一転してグルーヴが豊かになるのですから、本当に不思議です。耳が完全にジム・ホールのコード弾きに奪われてしまうのですから!
もちろんアドリブソロでは千変万化のフレーズを連発し、内向的な美学を追及しています。あぁ、こんなギターが弾けたら、人生も楽しいだろうなぁ……。
A-3 Polka Dots And Moonbeams (1963年録音)
ジム・ホールが無伴奏でテーマを爪弾きながら、ベースを呼び込んでいくテーマ解釈にシビレます。
そしてポール・デスモンドが入ってくると、ジム・ホールが沈黙をきめこむあたりの潔さ♪ 存分に花を持たせた後に伴奏を始める心憎さ♪
さらにアドリブパートでは淡々とフレーズを綴りつつ、ラストテーマの一人舞台の素地を作るんですから、参っちゃいます♪
このあたりの黒人的解釈がデヴィド・T・ウォーカーでしょうか……?
A-4 Here's That Rainy Day (1965年録音)
けっこうテンションの高い4ビートで、ポール・デスモンドはツッコミも鋭いのですが、伴奏のジム・ホールが百も承知の穏やかさですから、和みますねぇ~♪
こんな事を書いている自分が、本当に野暮天に思えてしまう演奏です。
B-1 Easy Living (1964年録音)
アルバムタイトルに選んだだけあって、素晴らし過ぎる演奏です。
ジム・ホールのイントロと伴奏に導かれ、ハスキーに柔らかい音色でテーマを吹奏するポール・デスモンドは、当に神がかりです。
どんな美女でもイチコロの耽美世界♪ ジム・ホールも最高の神業を聴かせてくれますよ♪ そしてパット・メセニーに影響を与えている証明が、ここに!
B-2 I've Grown Accustomed To Her Face (1965年録音)
パーシー・ヒースの躍動的なペースワークが素晴らしく、それゆえにポール・デスモンドやジム・ホールもテンションの高い演奏を聴かせてくれます。
特にジム・ホールは熟慮と謙遜の美徳を歌心に昇華させた素晴らしさです♪
あぁ、この人には、CTIのウェス・モンゴメリーみたいなリーダー盤を作って欲しかったですねぇ……。
B-3 Bewitched (1965年録音)
泣きのテーマが人気のスタンダード曲が、なおさらに泣けてしまう解釈になっています。しかも甘さに流れていないのが鋭いところです。
ジム・ホールはテンションの高いコード弾きとハーモニクスの飛ばし、さらにダンマリを決めこんだりする間合いの上手さ! このセンスの良さは天才の証明でしょう♪
B-4 Blues For Fun (1963年録音)
有名スタンダード曲が続いたアルバムの中で、これだけがポール・デスモンドのオリジナルです。とは言っても即興のブルースですが、これがズバリ、なかなか刺激的な演奏になっています。
それは時期的に、そして人種的にハードバップでは無いのですが、とてもハードドライヴなモダンジャズになっています。
もちろんポール・デスモンドは歌心を大切にしていますし、ジム・ホールも無機質なフレーズで対抗し、お互いに絶妙なブレイクを織込んで奮闘しています。
う~ん、それにしてもジム・ホールのアドリブはコピー不可という、意想外のニュアンスに満ちていますねぇ~!
ということで、どちらかと言えば、全篇が同じようなテンポと演奏パターンの金太郎飴状態なんですが、それがまた、美味しいんです♪ ハマると中毒!
個人的にはジム・ホールの演奏中心に聴いている盤ですが、ポール・デスモンドはもちろん、リズム隊もセンス良く頑張っていますので、安心して身も心も任せられる1枚です。
特に仕事を終えて、夜に独り……、とか、一番良いのは美女といっしょに聴きながら♪
そんな夢まで見せてもらえるこのアルバムは、ジャケットも秀逸です。本当に内容をズバリと表現していますからねぇ♪