人間、長く生きるとロクなことが無い!
なんて言われますが、やっぱり天寿は全うしたいし、生きてればこその喜びや楽しみは、間違いなくありますね。
本日のブツなんか、当に生きていて良かったという、これを――
■Milano 1964 / Miles Davis Quintet (Impro-Jazz)
マイルス・デイビスがウェイン・ショーターを迎えてスタートさせた、通称「黄金のクインテット」の、最も初期の姿を捕らえたライブフィルムをDVD化したものです。
内容は1964年のイタリア巡業からテレビ放送に収録された、全体で1時間ほどの演奏です。もちろん映像はモノクロですし、経年劣化も目立ちますが、一応公式盤というリマスターが施されていますから、これまで出回っていた海賊盤とは一線を隔する画質・音質になっています。
録音は1964年10月11日、イタリアはミラノでのライブで、メンバーはマイルス・デイビス(tp)、ウェイン・ショーター(ts)、ハービー・ハンコック(p)、ロン・カーター(b)、トニー・ウィリアムス(ds) という説明不要の五重奏団です――
01 Autumn Leaves
左右に開くカーテンが、まず良い雰囲気です。
するとマイルス・デイビスがミュートで枯葉ですよっ♪ あの繊細な歌心を秘めた思わせぶりなテーマ吹奏にシビレます。伴奏のリズム隊も緊張感がありますし、ビシッとキメたファッションもカッコイイですねぇ~♪
肝心の演奏はハービー・ハンコックが相当に挑発的で、マイルス・デイビスもそれに呼応して熱くなったしますが、やはりクールな姿勢は崩していないのが、流石だと思います。
そして気になるウェイン・ショーターは独特の浮遊感と意味不明な音選びで、全く未体験のアドリブ世界を構築していきますから、リズム隊も油断がなりません。明らかに前任テナーサックス奏者とは別次元のグルーヴが凄いところ! 演奏が進むにつれて激烈なフレーズを繰り出すウェイン・ショーターは、もう最高です。背後で爆発するトニー・ウィリアムスも嬉々としていますねぇ~♪
もちろんハービー・ハンコックのノリも素晴らしく、アドリブパートのグルーヴィな雰囲気は、全くこの人だけの良さが満喫出来ます。ロン・カーターとトニー・ウィリアムスとの息もバッチリ合った、当に快演♪
演奏はこの後、ロン・カーターのベースソロにマイルス・デイビスが途中から割り込んでラストテーマが奏でられますが、ここでのミュートプレイは、もはや人間国宝でしょうねぇ。
ところが、最後の最後で、ハービー・ハンコックが味な真似の伴奏を入れるので、マイルスは激怒フレーズからブッツリ、演奏を止めてしまいます。もちろんそれは、最高の緊張感に満ちたエンディングですから、お客さんは立ち上がっての大拍手なんですが、マイルス・デイビスはハービー・ハンコックのピアノへ歩みより、こうやってやれっ! と言うようなピアノフレーズを自ら鍵盤で指示します。
う~ん、これにはハービー・ハンコックも不貞腐れ気味! するとロン・カーターがマイルス・デイビスに何やら耳うちして、演奏は次に進むのですが……。
02 My Funny Valentine
これまたマイルス・デイビスが十八番の人気曲♪
前曲の最後でミソをつけたハービー・ハンコックがロマンチックな雰囲気のイントロを提示すると、マイルス・デイビスは常套手段の思わせぶりでテーマメロディを変奏していきますが、この展開は同時期に残されているライブバージョンとほとんど同じです。
しかし、それでも何時しか虜になってしまうんですねぇ~♪ マイルス・デイビスだけの完成された様式美が、たっぷりと楽しめるわけです。スローなスタートから少しずつグルーヴィな4ビートに持っていくバンド全員の一体感は、連日のライブで会得したものかもしれませんが、緊張感と楽しい雰囲気が両立していて、流石だと思います。
またウェイン・ショーターは幽玄の響きとブッ飛びフレーズの併せワザで迫ります。異常に長いフレーズを一息で乗り切ってしまうテンションの高さ、ひとつの音も無駄にはしないという潔さが素晴らしいですねぇ~。もちろんリズム隊の思惑にも合わせる協調性がありますから、ウルトラ過激を演じても、単なるデタラメではありません。
そしてハービー・ハンコックのピアノソロが短めにあって、再び登場するマイルス・デイビスのラストテーマ吹奏が、これまた素晴らしく、背後で真剣にそれを聴いているトニー・ウィリアムスの姿が印象的です。
03 All Blues
前曲が終わるやいなや、いきなり始るグルーヴィなロン・カーターのベースリフ! これが何ともジャズの魅力に溢れていますから、マイルス・デイビスのミュートによるテーマ提示にはゴキゲンになります♪
そしてアドリブハートでは、一転してオープンで吹きまくるマイルス・デイビス! しかも途中から正統派4ビートに持って行きますから、十八番のリックがビンビン飛び出してきて、気分は最高です♪ またトニー・ウィリアムスの押え気味のドラムス、グイノリのロン・カーター、弾みまくるハービー・ハンコックというリズム隊が、なかなかのグルーヴを生み出しているんですねぇ。
するとマイルス・デイビスは、後年の電化ジャズロック時代を先取りしたような、ツッコミ鋭いフレーズまで吹いてしまいます。開始から30分位のところからは、もう耳と目を疑うほどですよっ! ジャック・ジョンソン!?
おまけにトニー・ウィリアムスは、なんとかロックビートを敲きたいという真情吐露までしてしまうのですが、それはウェイン・ショーターの登場で遮られます。しかし、ここからが本当の山場というか、緩急自在のノリと異次元フレーズの連発に、その場はブラックホール状態!
ですから続くハービー・ハンコックは完全に迷い道……。せわしないトニー・ウィリアムスのドラムスも逆効果なんでしょうか……。と思った次の瞬間、トリオはグルーヴィな正統派4ビートの世界に立ち返るんですから、たまりません♪
これにはマイルス・デイビスも満足したんでしょうか、ラストテーマに入る前には、またまたハービー・ハンコックの横でピアノの鍵盤にちょっかいを出します♪ そして大団円は、見事な盛り上がりとなるのでした。
04 All Of You
万来の拍手の中、またまたミュートで迫るマイルス・デイビスが十八番のスタンダード曲♪ ここでは従来のテンポよりも、やや早めの演奏にしていますが、緊張感と和みのバランスは失われていません。
それは寄り添うロン・カーターのペースのセンスの素晴らしさ、トニー・ウィリアムスの繊細なブラシがキモでしょうか。なかなかジャズっぽい気持ちの良さが楽しめます。
またウェイン・ショーターは初っ端からグイノリというか、珍しくもストレートな表現を聞かせてくれます。ただし常套句のようなフレーズは、ほとんど出ません。あくまでも俺流を貫く潔さ! このあたりはショーターフリークが感涙のところでしょう。あぁ、もう最高で歓喜悶絶させられます♪ 背後で炸裂するトニー・ウィリアムスのドラムスも強烈です!
そしてハービー・ハンコックにしても、この曲は得意中の得意ですから、多くのバージョンで名演を残していますが、これもそのひとつになるでしょう。快適なテンポの歯切れの良いピアノタッチは、本当に見事ですし、歌心の妙にも感心させられます。映像で初めて分かるコードの使い方や音選びの妙も見逃せません。
ラストテーマでのマイルス・デイビスの思わせぶりは、言わずもがなでしょう。
05 Joshua into The Theme
さてオーラスは、マイルス・デイビスの指パッチンから、これも十八番の激烈モード曲が始ります。
もちろんこういうアップテンポの演奏では、トニー・ウィリアムスの大爆発を期待してしまうんですが、肝心のシンバルがあまり良く録音されていないのが、ちょっと残念です。ただしバスドラはド迫力!
で、マイルス・デイビスは、何時ものパターンというか、幾つかのキメのフレーズを繋げたような、ややマンネリ気味でしょうか……。しかし強烈なリズム隊に煽られて吹きまくるその勇姿は、映像作品ならではの快楽です。
そしてウェイン・ショーターが、これまた凄い! ジョン・コルトレーンも真っ青のグリグリブヒブヒのモード節に加えて、浮遊感満点の異次元節を駆使して、リズム隊を翻弄していく様は痛快です。
しかしバックをつける3人は、百も承知なんで動じません。トニー・ウィリアムスなんか、若造のくせに余裕で楽しんでいる雰囲気ですし、ドラムを敲く姿そのものが、とにかくカッコイイです♪ あぁ、ついついボリュームを上げてしまうですよぉ~~~♪
演奏はラストテーマの後に短めのテーマがあって、ステージは終演となりますが、トニー・ウィリアムスは明らかに物足りないという熱気が漂うのでした。
ということで、映像作品的な面白さも含めて、演奏は極上です。またロン・カーターのベースがしっかりと録音されているので、その繊細で豪胆なベースワークが、このバンドの要? なんて妄想させられる瞬間もあるほどです。
肝心の画質はモノクロとはいえ、ややブルーっぽい感じなのが、好き嫌いの分かれ目でしょうか。ランク的にはB+ぐらいなんで、過大な期待は禁物です。
しかし、贅沢を言ってはバチがあたりますよ。
とにかく全てのジャズファンは必見のお宝作品だと思います。
結論として、これまでの記録「マイルス・イン・ペルリン」から2週間ほどしか経ってないのに、この過激さは、何なんだっ! と声を大にしたいです。