毎度のことですが、ちょっと仕事が地獄になってきました。
そんな所へ関係者の訃報が入ったり……。
さあ、今日は実家へ帰ろう!
という支離滅裂なところで、本日は――
■Gone Wiht The Wind / Dave Brubeck (Columbia / Sony)
モダンジャズでは一番人気だったディブ・ブルーベックのカルトテットは、もちろん優れたミュージシャンの集りだったわけですが、発売するアルバムもまた、好企画盤が多いという、優れたプロデュースに恵まれていました。
つまり単なる演奏集ではなく、アルバム全体をひとつの企画に纏めた作りにしていたんですねぇ~♪ これは同時代の他のジャズバンドでは、なかなか出来ないことだったと思います。
で、この作品はアメリカ南部に題材を求めていますが、もちろんそれは、白人社会から見たアメリカ人の心の故郷を狙っているようです。
録音は1959年4月22&23日、メンバーはデイブ・ブルーベック(p)、ポール・デスモンド(as)、ジーン・ライト(b)、ジョー・モレロ(ds) という黄金期のメンツです――
A-1 Swanee River (1959年4月22日録音)
アメリカ大衆音楽の草分け的作曲家=スティーヴン・フォスターの代表曲を、ディブ・ブルーベックは思わせぶりを含めて軽快にアレンジ・演奏してくれます。なにしろドラムス&ベースの基本に忠実なスイング感が最高ですからねぇ~♪ ポール・デスモンドのクールなアルトサックスも、止まらない歌心を披露しています。
う~ん、それにしてもジョー・モレロのブラシの気持ち良さ!
ガチガチのディブ・ブルーベックのピアノとのアンバランスな相性の良さは、いう事無しというジャズの魅力だと思います。終盤の掛け合いなんか、見事過ぎますねっ♪
A-2 The Lonesome Road (1959年4月22日録音)
ブルース味がついた哀愁の名曲ですから、ジンワリと演奏を始めるディブ・ブルーベックの手の内はミエミエなんですが、いゃ~ぁ、気持ち良くノセられてしまうんですねぇ~♪
それはスゥ~と登場するポール・デスモンドのハスキー&ウェットなアルトサックスに凝縮され、その背後ではジョー・モレロの意外なほどハードなドラムスが素晴らしい限りです。
しかも後を継ぐディブ・ブルーベックのじっくり構えたピアノ、それに寄り添うジーン・ライトのベースが存在感を示していますから、後半の緩急自在なバンドのノリは天下一品! もちろんここでも、ジョー・モレロのシャープなドラムスが天才性を遺憾なく発揮しているのでした。
A-3 Georgia On My Mind (1959年4月22日録音)
説明不要の人気大名曲ですから、ここは素直に楽しんで正解という名演になっています。
あぁ、モタレ寸前のスローグルーヴは、明らかに黒人系の演奏とは異なっていますが、むしろ如何にも白人というディブ・ブルーベックの硬質なピアノタッチや涼やかな熱気を孕んだポール・デスモンドのアルトサックスは、これもジャズの王道だと納得させられるでしょう。
本当にいつまでも浸りきっていたい世界だと思います。夏の夜に冷たいビールとこの演奏があればねぇ~♪
A-4 Camptown Races / 草競馬 (1959年4月23日録音)
これもスティーヴン・フォスターが書いた楽しい名曲ですので、このバンドもその路線を大切にした軽快なスイングに撤していきます。
もちろんキモは強烈なジョー・モレロのドラムス! バスドラ、ブラシ、シンバルのキレは、もう最高と言う他はありません! あぁ、短い演奏なのが残念です。
B-1 Camptown Races / 草競馬 (1959年4月23日録音)
さて、こちらは別バージョンですが、基本路線は変わりません。
ただしポール・デスモンドが、かなり熱くなっていますし、ジョー・モレロはますます強烈なビートを敲き出しています。
B-2 Short'nin' Bread (1959年4月23日録音)
これはジョー・モレロのオリジナル曲で、もちろん自分のドラムスを大活躍させていますが、そこにはアメリカインディアン風のリズムとかアフリカ土人のビートまでも取り込んだ変幻自在の恐ろしさが秘められています。
しかし決して難しくないんですねぇ~♪ 当に天才が成せるワザ!
B-3 Basin Street Blues (1959年4月22日録音)
一転してポール・デスモンドを主役に据えたモダンジャズ王道の演奏となります。
曲は白人的解釈のブルース歌謡なので、バンド全体も十八番のノリというか、聴いていて安心感のあるスリル! つまり全て分かっている楽しみに満ちています。
B-4 Ol' Man River (1959年4月23日録音)
これも有名なミュージカル「ショウボート」からのゴスペル風な曲ですが、ここではかなりアグレッシブにアレンジされ、ジーン・ライトのベースが大活躍しています。
しかし失礼ながら、ここでの主役はジョー・モレロ! というのが私の感想です。いやはや、実際、素晴らしいドラミングには絶句ですよ♪
B-5 Gone With The Wind (1959年4月22日録音)
オーラスは軽快なモダンジャズ! ポール・デスモンドのクールなアルトサックスが冴えまくりです♪ もちろんジョー・モレロのシンバルも快適ですし、安定感抜群のジーン・ライトのウォーキングベースが手馴れた雰囲気です。
しかしデイブ・ブルーベックは、良くスイングしているように見せかけて、要所で自分だけのガチガチなところを披露して、ニヤリとさせられます。
ということで、とても良く出来た作品だと思います。なによりメンバー全員が自信を持って自分達のバンドスタイルを貫いている姿勢が潔く、当に人気絶頂期の勢いと輝きが楽しめると思います。
そしてそれは、冒頭で述べたように、白人社会から見た南部やジャズの解釈ですから、ある意味で「強いアメリカ」を表現する意図があったのかもしれません。このあたりは「Columbia」という大手レコード会社ならでは目論みでしょうか。
個人的には映画「風とともに去りぬ」とか「夜の大走査線」に描かれた南部白人社会の実相、あるいはそこに蠢く黒人社会の苦しみ、そんなこんなを黒人音楽のジャズで表現した白人音楽家の居直りみたいなものを感じたりしますが、そんなことは、どーでもいいでしょう。
じゃ、書くなよ~、という声がはっきり聞こえますが、アルバムそのものは楽しく、哀愁もあるスマートなモダンジャズの決定盤だと思います。