PC、なんとか復調、一安心です。
しかしデータが一部壊れているような気配……。
まあ、それはそれとして、本日は――
■Music In The Key Of Clark / John Hicks (High Note)
ジョン・ヒックスといえば、マッコイ・タイナーを追う一番手のような、暗く饒舌なモード節を得意とした黒人ピアニストですから、所謂ジョン・コルトレーンの世界の継承・再現を狙うバンドには不可欠の名手です。
しかし、このアルバムは、なんとその対極に位置するようなソニー・クラークの世界にトリビュートした企画盤! これだけで、ちょっとワクワクと驚愕です。
さて、そのソニー・クラークは、我国でこそ人気ダントツの黒人ピアニストですが、本国アメリカでは知る人ぞ知るの存在だったようです。なにしろ積極的にソニー・クラークを録音していたブルーノートの主宰者=アルフレッド・ライオンですから、日本でのソニー・クラーク人気には愕いていたという伝説があるほどですからねぇ……。
まあ、ソニー・クラークの作曲やアドリブフレーズから滲み出てくる仄かな気分はロンリーな感覚とか、泣きのツボの刺激の上手さあたりは、当に日本人好みでしょう。この感覚が毛唐にわかってたまるかっ! という粋がりすら、私にあったりします。
で、この作品の録音は2001年3月18日、メンバーはジョン・ヒックス(p)、ドュウエイン・ドルフィン(b)、セシル・ブルックス三世(ds) というシブイ面々のピアノトリオが主体です――
01 Pocket Full of Blues
ジョン・ヒックスのオリジナルですが、まるっきりソニー・クラークのアドリブフレーズから引用したようなテーマメロディが、まず素敵です。
もちろん快適なテンポで演奏される全篇には、ソニー・クラークの味わいがたっぷり♪ あぁ、ジョン・ヒックス、あんたはいったい……。いやはやなんとも、調子の良いグルーヴと一抹の泣きを含んだアドリブは、小手調べとは言いがたい魅力があります。
またベース&ドラムスもハードバップ感覚を大切にしていますので、これ1曲で気分は最高です。
02 My Conception - Prelude
03 My Conception
「Sonny Clark Trio(Time)」や後年の発掘盤「My Conception(Blue Note)」に入っていた、これも哀愁の名曲です。
ここではチャプター分けされていますが、ほとんど繋がった演奏で、前半のソロピアノ部分は「Sonny Clark Trio(Time)」でのソニー・クラーク自身のソロを意識したものでしょう。ジョン・ヒックスは、なかなかの思わせぶりで、ジーンとしますよ。
そして後半はピアノトリオとなって、ミディアムテンポの快演♪ 次々に溢れ出る哀愁のアドリブフレーズは、オリジナルのテーマメロディを心を込めて解釈したと思い込んでも良いでしょう。何度聴いても本当に快感で、これがジャズを聴く喜びだと痛感させられます。あぁ、出来すぎの歌心!
もちろん、でしゃばらないベースとドラムスも最高で、特にセシル・ブルックス三世のブラシは流石です。
ズバリ、この曲だけで、このCDは価値があると断じます。
04 Cable Car
ソニー・クラークが西海岸でバディ・デフランコのバンドに雇われていた時代のオリジナル曲です。
それはラテンビートを基本にした楽しさがミソでしたが、ここでは擬似ボサロックで演奏され、オリジナルのテーマメロディを上手く変奏するジョン・ヒックスの器用さが堪能出来ます。もちろん歌心も満点♪
ただし、ちょっと全体的に隙間が目立つというか、もう少し熱気が欲しいのが本音です。
05 Sonny's Ballad
はて、これはどのアルバムに入っていたのでしょう?
クレジットはソニー・クラークになっている泣きの美メロで、ここではジョン・ヒックスが素晴らしいソロピアノ演奏を聞かせてくれます。う~ん、本当に「ソニクラ節」しか出てこないんですよっ♪
06 Minor Meeting
ソニー・クラーク自身が何度もレコーディングしている説明不要の名曲ですが、ここでは変態ジャズロックにアレンジし、新鮮味を狙っているようです。
う~ん、狙いは分かるんですが……。こういう曲こそ、真っ向勝負して欲しかったですねぇ……。
07 I Deal
これもソニー・クラークが西海岸時代に書いたオリジナル曲でしょう。確かハワード・ラムゼイのライトハウスオールスターズ(Contemporary)での演奏が残されているはずです。
で、ここでのジョン・ヒックスはミディアムテンポで素晴らしい快演を聞かせてくれます。あぁ、この仄かのブルース感覚と泣き! タメとモタレのピアノタッチもソニー・クラークをじっくりと研究した成果と言うよりも、「愛」でしょうかねぇ♪ それでいて、持ち前の歯切れの良さも存分に披露しているんですから、流石だと思います。
08 Sonny's Mood
これも説明不要というソニー・クラークのオリジナル曲で、原典は「Dial S For Sonny(Blue Note)」なんですが、そこではグルーヴィなハードバップだった演奏を、ここでのジョン・ヒックスはソロピアノでジンワリと聞かせてくれます。
う~ん、これも肩透かし気味ではありますが、しかしソニー・クラークの持ち味がちゃ~んと滲み出ているのですから、ちょっと愕きなのでした。あぁ、この暗いスイング感!
09 Sonny's Crib
ソニー・クラークのリーダー盤「Sonny's Crib(Blue Note)」のタイトル曲ですから、嬉しくなってきます。しかもここでは絶好調のトリオ演奏! ジョン・ヒックスはソニー・クラークに拘らずに自分の「節」も交えての快適スイングですし、キメるところはキメるというドラムス&ベースの好サポートも見事です。
ちょっと軽めの仕上がりではありますが、気に入っています。
10 Angel With a Briefcase
11 Clark Bar Blues
12 Sonny Side Up
13 Sonny Day
以上の4曲は全てジョン・ヒックスのオリジナルで、曲タイトルからも推察出来るように、ソニー・クラークに捧げきった演奏を聞かせてくれます。
ただしそのほとんどの部分がソロピアノなんですねぇ……。
そこが物足りなくはありますが、しかし「Clark Bar Blues」は途中からドラムス&ベースを従え、黒くてグルーヴィな展開を聞かせてくれますから、たまらんですよっ♪
またオーラスの「Sonny Day」における気分はロンリー感覚も、捨てがたい魅力がありますねぇ。
ということで、全てが素晴らしいアルバムでは無いんですが、実は密かに愛聴している1枚です。特に「My Conception」や「I Deal」はグッとくる演奏で、ジョン・ヒックス中毒になりそうな……♪
ですから、個人的なオススメ曲順は「2・3」→「9」→「7」→「13」ですが、頭っから聞き流しても、いつしか惹き込まれて抜け出せない世界が展開されているのでした。