【社説②】:農水ファンド 早期廃止は避けられぬ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:農水ファンド 早期廃止は避けられぬ
農林水産省が官民ファンド「農林漁業成長産業化支援機構」(A―FIVE)の早期廃止を視野に見直しを検討している。
農家が加工から販売までを担う「6次産業化」の支援を目的に2013年に設立された。しかし20年度末にも新規投資を停止し、法律上の設置期限である32年度を大幅に前倒しする方向だ。
ずさんな投資により累積赤字は100億円規模に膨らんでいる。
19年度上半期は33億円を投資するはずだったが、半分以下の16億円にとどまった。新たな投資先も見つけられないのが現状だ。
そうであれば、これ以上傷口が広がらないよう廃止に向かうのは当然である。
国と民間が共同出資する官民ファンドは全部で14ある。アベノミクスの成長戦略の目玉に掲げられ、多くは第2次安倍晋三政権発足後につくられた。
民間だけではお金を出しづらい分野に資金を供給し、地方の企業を後押しする狙いもあった。しかし一部で採算を軽視した投資が繰り返されてきた。
A―FIVEは、1件当たりの投資額が約1億円と小粒な一方で、ファンドの人件費など運営費がかさんでいる。
日本政策金融公庫など農業を金融面で支援する機関は他にもあることから、その必要性はかねて疑問視されてきた。
江藤拓農水相は「廃止になった場合でも投資先に迷惑がかからないようにしないといけない」と述べ、後継組織を立ち上げる考えも示唆している。
単なる「看板の掛け替え」に終わらせてはならない。
財務省によると、A―FIVEや、日本の文化を海外に売り込む「クールジャパン機構」など計四つの官民ファンドの収益が低迷している。
累積赤字の合計は19年度末で約460億円に上る見通しだ。いずれも損失を解消できるほどの収益を上げられるかどうかは不透明だ。A―FIVE以外も抜本見直しが避けられまい。
各ファンドは年度末に決算を公表しているが、多くは個別の投資案件の状況を公開していない。適切な投資が行われているのか、チェックする仕組みが不可欠だ。
官民ファンドが不振のまま事業を終えれば国の資金を回収できず、国民につけが回る恐れがある。既存の投資の回収を徹底的に進めるのはもちろん、関係者の責任が厳しく問われなければならない。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2019年11月28日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。