ループス・コミュニケーションズの福田浩至氏は、「情報技術に知見のある人々の嘲笑を買っただけでなく、一般消費者には不安を与える対応となった。自社だけでなく、スマホ決済に関わる業界全体にも、好ましくない印象を与えてしまった」と指摘する。

 また、この会見の問題点として「登壇者での“役割分担”をせず、トップが何から何まで答えすぎたこと」を挙げたのは、ピーアール・ジャパンの中村峰介氏。当時経営トップだった小林氏は、日本長期信用銀行(現新生銀行)、日本興業銀行(現みずほ銀行)を経てセブン-イレブン・ジャパンに入社しており、いわばファイナンス分野のプロ。一方、セブン・ペイの社長には昨年就任したばかりで、デジタル領域の知見は十分ではなかったかもしれない。

 そうした部分を正確にカバーするために、会見ではグループのデジタル分野の責任者2名が同席していた。しかし、小林氏はこうした人材を活用せず、「不得手な質問もすべて自力で対処しようとした」(中村氏)ために、「スマホ決済運営会社のトップがデジタルを知らない」ことを印象付けるような発言が飛び出してしまったというわけだ。

「社長は『利用者の個人情報を守るため最善を尽くしてきたつもり』という企業姿勢を繰り返し述べつつ、技術的な詳細は〇〇から回答を……という具合に、回答者を振り分けるべきだった」(中村氏)

 ◆プロが選ぶ謝罪会見ワースト3位 かんぽ「不適切販売問題」

 ワースト3位となったのは、日本郵便とかんぽ生命保険によって、保険料の二重払い契約など顧客に不利益をもたらす「不適切な販売」があった問題。今月18日に発表された特別調査委員会の調査報告では、法令・社内規則違反が疑われる契約は1万2836件に上ることが分かった。

 問題自体の深刻さもさることながら、度重なる経営陣の会見ではその態度にも疑問の声が上がった。専門家からは、「経営者が下に責任を押し付けている感じがあった」(関西大学社会安全学部・亀井克之氏)、「たたかれることを想定できず、仕方なく説明してやっている、といった姿勢が表面化している」(アズソリューションズ・佐々木政幸氏)などのコメントが相次いだ。

 過度なノルマが指摘されていた営業体制などについては、「問題改善に向け近年努力をしてきた」「頑張っている最中」という姿勢をアピールする一方で、事態を把握した時期やこれほどの問題に至った根本的な要因については曖昧な回答が目立った。加えて、幹部の発言から見解の相違が明らかになるなど、組織内の足並みの乱れもあらわになり、さらに両社を信頼回復の道から遠ざけることとなった。

 ◆プロが選ぶ謝罪会見ワースト2位 吉本興業「闇営業をめぐる諸問題」

 宮迫博之氏、田村亮氏ほか吉本興業所属の芸人が振り込め詐欺集団のパーティーに出て金銭を受け取った、いわゆる「闇営業」問題。風向きを大きく変えたのが、渦中にあった宮迫氏・田村氏の会見だった。「記者会見を吉本が阻止した」――突如としてパワハラ問題の様相を呈し、吉本興業の岡本昭彦社長が会見を開いたのは、発端となった週刊誌報道から1カ月半ほどたってからだった。

 専門家からはまず、この初動の遅さを指摘する声が上がった。

「宮迫氏、田村氏が会見してからようやく、会社としての会見。信頼回復を図る意志が見られない」(アサミ経営法律事務所・浅見隆行氏)

 世間の注目を大きく集めた会見は5時間超の長丁場となり、タレントとの契約体系にまで話が及んだ。しかし、説明された内容は釈然とせず、「(クビ発言などは)冗談だった」という迷言も飛び出す始末。かえって「ダラダラ長いだけで何も説明できていない」という印象を色濃くする結果となった。

 吉本興業といえば、正社員という立場ではないものの、6000人という所属タレントを擁する大所帯。「芸能界の特殊性を強調するだけではなく、その規模にふさわしい(社会的責任を示すなどの)対応が必要であった」(エンカツ社・宇於崎裕美氏)と、大企業に似つかわしくない時代錯誤っぷりを露呈した会見に批判の声が相次ぎ、ワースト2位となった。

 「すべてがダメで、社長会見が傷口を広げた例として歴史に残る大失敗の会見だった」(エイレックス・江良俊郎氏)

 ◆プロが選ぶ謝罪会見ワースト1位 関西電力「金品受領問題」

 そして、不名誉な2019年の謝罪会見ワースト1位となったのは、「関西電力」。八木誠会長(当時)、岩根茂樹社長ら役員20人が福井県高浜町の元助役から約3億2000万円相当の金品を受け取っていた問題だ。この問題を巡って関西電力が9月27日に初めて開いた会見は、実に謎多きものだった。

 もらったものや方法、返却時期、社内処分の内容など、多くの質問で「回答を差し控える」というコメントに終始。「反省の態度がなく責任を明確にする姿勢がなかった。質問に向き合わない不誠実さは過去に例をみないほど」(前出・石川氏)

 これが大きな批判を浴び、10月2日の第2回の会見を開かざるを得なくなる。しかしこの会見も、事態を収束させるどころか、火に油を注ぐこととなった。まず、この日公表された同社の社内調査報告書は、元助役・森山栄治氏のパーソナリティーの特異性を節々で強調していた。「まるで関西電力が被害者かのような言い分」(前出・宇於崎氏)ともとれる内容で、実際にその点を疑問視した報道も散見された。さらに、自身も金品を受け取っていた八木氏、岩根氏が辞任を否定。その1週間後に行われた3回目の会見で、八木氏が辞任を発表、岩根氏は第三者委員会の調査終了後に辞任する意向を示したが、時すでに遅し。「世間を甘く見ていたことが露呈した」(前出・宇於崎氏)。

 山見インテグレーター・山見博康氏は、「情報を小出しにしたため、何度も会見を開くはめになった」と、1回目の会見失敗が尾を引いたことを指摘する。そもそも、関西電力社内で本件の報告書が作成されたのは、昨年の9月。コンプライアンス意識の改革も会見の判断も、すべて後手に回ったと言わざるを得ない。

 13人中10人の専門家がワースト3の一つに選んだ、関西電力「金品受領問題」。事の重大性もさることながら、経営陣の会見対応が事態をさらに悪化させた、まさに「ワースト会見」だった。

 ◆会見で“止血”できる企業、できない企業 もしものときの命運を分ける組織づくり

 不祥事や問題が起こらないに越したことはないが、もしものときはどうすればよいのか。SNSの拡散力が高まってきたこともあり、世論はいつ、どう転ぶかわからない。「もはや危機管理マニュアルは機能しない」という専門家もいる。

 これまで以上にスピーディーな対応が望まれる今、まずは「傷が浅い段階で止血できる」(前出・山見氏)組織づくりが不可欠だ。現場で起きた問題を現場に近い管理職が正しく処理し、さらに上層部へきちんと情報を上げることができるかどうか――。それが問題が起きたときの企業の生命線となる。

 とはいえ、有事のときこそ正しい情報は上がってこない。渦中の人であるほど、情報を上げることが自分の不利益になりうるからだ。先の吉本興業の闇営業問題が大騒動に発展してしまった要因は、「金銭は受け取っていなかったとウソの発表をしてしまったこと」だった。山見氏は、情報を「複数ルートから上がるようにしておくことが重要」と話す。できる限り多様な視点から情報を集め、きちんと正確性や時系列を整理した上で、会社としての公式見解をつくることが重要だ。網羅的な公式見解があれば、それを軸に顧客や関係者、社員に対する説明や、記者の質問への回答を行うことができる。

 「会見の目的はメディア対応ではない。その先のお客さまや社会に対する説明責任を果たす機会だと、本質を理解すべき」と山見氏。

 会見の場で誠意を持って謝意を表明し、十分な説明と具体的な今後の対策を発表することができれば、ダメージを最小限に食い止めることも可能だ。企業は炎上を恐れるが、SNSを味方に状況を好転させる企業も決して少なくない。

 ◆プロが選ぶ神対応は? 適切な情報開示とタイミングが鍵

 最後に、「よかった謝罪会見」について聞いてみた。悲しいかな、「該当なし」の回答も少なくなかったが、被害や臆測の拡散を最小限にとどめた学び多き事例を、結びとして紹介したい。

 宇於崎氏は、今年5月に散歩中の保育園児と職員が交通事故に巻き込まれ、園児2名が死亡したことに対する滋賀県大津市・レイモンド淡海保育園の対応を挙げた。「素早い情報公開、的確かつ粘り強い報道対応により、世間の理解と支援を得ている」と評価する。事件や事故に対する対応というと、加害者に注目がいきがちだが、「被害者側も油断はできない」と宇於崎氏。「適切な情報公開や説明をしないと、被害者側にも落ち度があったのではないかと疑いをかけられることがある」(宇於崎氏)。

 浅見氏は、LIXILの株主総会後の会見を挙げた。創業家の潮田洋一郎氏とのグループの経営権を巡る騒動の末、前最高経営責任者(CEO)の瀬戸欣哉氏の復帰が決まった株主総会後の会見だ。長期にわたってさまざまな報道が飛び交う中で、LIXILの行く末に不安を覚えた株主も少なくなかっただろう。「瀬戸氏は、潮田氏との経営権争いを制した株主総会当日に『これからは一つのチームになる』と強調した。外部からの不安を払拭して、信頼回復にも役立てた効果的な会見だった」(浅見氏)

 また、今年の会見ではないものの、2015年6月に行われたトヨタ自動車の豊田章男社長の会見を挙げたのは、風間眞一広報事務所・風間眞一氏。「トヨタ自動車の役員・麻薬密輸容疑で逮捕」という報道を受けてのものだった。「さまざまな臆測が飛びかねないなか、『私自身が説明することが大切』との意思表示は、情報の独り歩きを制するに十分だった。また、発言内容も前日発表された会社声明の枠を超えない慎重さで、イメージの悪化に先手を打った点は評価できる」(風間氏)

 企業不祥事以外にも、悲惨な事件や自然災害など、さまざまな予期せぬ出来事が発生する。「備えあれば憂いなし」とは言い切れない昨今だが、有事に対する向き合い方が企業にとっては命取りになることが改めて明らかになった一年だった。

<アンケートの回答者一覧>
 ・SOMPOリスクマネジメント 危機管理コンサルティング部・広報チームリーダー 五木田和夫氏
 ・エンカツ社 代表取締役社長 宇於崎裕美氏
 ・ピーアール・ジャパン 代表取締役社長 中村峰介氏
 ・大森朝日事務所 代表取締役 大森朝日氏
 ・山見インテグレーター 代表取締役 広報・危機対応コンサルタント 山見博康氏
 ・アサミ経営法律事務所 代表弁護士 浅見隆行氏
 ・アズソリューションズ 佐々木政幸氏
 ・風間眞一広報事務所 代表 風間眞一氏
 ・ループス・コミュニケーションズ 福田浩至氏
 ・東北大学特任教授/人事コンサルタント 増沢隆太氏
 ・関西大学社会安全学部 教授 亀井克之氏
 ・エイレックス 代表取締役/チーフコンサルタント 江良俊郎氏
 ・広報コンサルタント 石川慶子氏
 以上 13名(順不同)