大阪市の小学6年の女児が誘拐され、栃木県小山市で保護された事件など、オンラインゲームやソーシャルネットワーク(SNS)絡みの事件が多発している。5月には世界保健機関(WHO)が「国際疾病分類」最新版で「ゲーム障害」を依存症に認定した。2003年(平15)の設立後、オンラインゲームと人の付き合い方を研究する「オンラインゲーム調査研究所」の平井大祐代表に、SNSを含めた環境の問題点、対策を聞いた。

オンラインゲーム調査研究所の平井大祐代表

        オンラインゲーム調査研究所の平井大祐代表

  ◇    ◇    ◇

 約600キロ離れた大阪から栃木まで誘拐された事件のきっかけは、少女が好きなオンラインゲームと、仲間とやりとりするツイッターとみられている。少女の保護と容疑者の逮捕から4日後の11月27日、国立病院機構久里浜医療センターがオンラインゲームについて発表した調査では、全国の10~29歳の約33%が平日1日当たり2時間以上オンラインゲームなどをプレーし、プレー時間が長いほど心身の問題が起きやすい傾向にあるとの結果が出た。

 オンラインゲーム調査研究所は03年「オンラインゲーム依存傾向と抑うつの関係」と題した調査を993人に行い、1日のプレー時間が長いほど依存傾向が高かった。不登校、仕事の能率低下、現実とゲームの世界との区別があいまいになるなど実生活に影響が出たとの回答もあり、16年後に行われた久里浜医療センターの調査と近い結果が出た。一方、人付き合いが苦手な人の孤独感の解消、対人スキルの向上など、良い面もあるとの回答もあった。

 平井代表は、オンラインゲーム上の人間関係は「相手はゲームのキャラクターとして見えており、本人の顔も見ずに人間性を判断せざるを得ない希薄なもの」と説明。その上で、オンラインゲーム絡みの事件の原因は「本当に会って話さないと分からない、見えない部分を想像し、理想的な人物像を作ってしまうから、いろいろなことが起きてしまう」と分析した。

 オンラインゲームをやっている子どもが、事件に巻き込まれないために何をしたらいいのか。平井代表は「子どもがやっているゲームを一緒にやるか、拒否されたら1人でいいから実際にやってみる。おっ!? と驚いたり、疑問を感じるところもあると思う。子どもがどういうゲームをやっているかを、大人が把握することが大事」と強調した。

 インターネットは社会的インフラとなっており、子どもも日常的に触れる可能性が高い。平井代表は「親御さんは、子どもが世界中の人と関わりを持つことが出来る時代になったことを認識すべきだ。スマートフォンを渡す前に家族内のルールを作り、リスクを教えることは必須」と訴えた。【村上幸将】

 ○…6月に発生した元農林水産事務次官の熊沢英昭被告が長男を刺殺する事件では、家庭内暴力を繰り返した長男がオンラインゲームに浸っていた。長男のものとみられるツイッターのアカウントには連日、ゲームに関する投稿がなされ、他者を攻撃するものもあった。平井代表は「相手のプレイヤーを理想的にものに妄想してしまい、現実世界でフラストレーションとしてたまったのではないか」と分析。新潟市で11月、飲食店店員の石沢結月さんが刺殺された事件でも、斎藤涼介容疑者との接点はオンラインゲームとみられる。平井代表は「対面前に、絶対にいい人などと理想を信じ込み、実際に会った際、ギャップから相手を否認したりする」ことを事件の可能性の1つとして挙げた。

小学6年の女児が逃げた際、はだしで走ったとみられる栃木県小山市内の陸橋(11月23日撮影)

  小学6年の女児が逃げた際、はだしで走ったとみられる栃木県小山市内の陸橋(11月23日撮影)

 ◆大阪女児誘拐事件 

 11月17日午前に、大阪市住吉区の小学6年の女児の行方が分からなくなり、19日夜に大阪府警が公開捜査に踏み切った。23日、女児は約430キロ以上離れた、栃木県小山市内の交番に逃げ込んで保護され、伊藤仁士容疑者(35)が未成年者誘拐の疑いで逮捕された。同容疑者は10日ごろにSNSで女児と知り合い、17日に大阪まで行って出会った。また容疑者宅には、6月に行方不明届が出ていた茨城県の女子中学生もいた。