【社説①】:自衛隊中東派遣を決定 国会軽視の対米追従だ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:自衛隊中東派遣を決定 国会軽視の対米追従だ
安倍晋三政権が海外での武力行使を禁じた憲法9条の形骸化を進める政策に、また一歩踏み出した。
政府はきのう、海上自衛隊の中東派遣を閣議決定した。日本関連船舶の安全確保に必要な情報収集態勢の強化が目的としている。
船舶防護の緊急性は否定していながら、国会審議も経ず、あまりに拙速な決定で容認できない。
米国はイラン近海での安全確保のため、自ら主導して結成した有志連合に参加するよう、日本に繰り返し求めてきた。
有志連合への参加は見送りつつも、別の形で派遣を実現し、米国への同調をアピールする政府の狙いが透けて見える。
国会軽視も甚だしい。
閉幕後に閣議決定することで、派遣の必要性や武器の使用基準などに関する国会の熟議を避けた。
対米追従ありきで、法的根拠も説得力を欠く。
安倍政権は積極的平和主義の名の下、専守防衛から逸脱する政策を次々と遂行し、自衛隊と米軍の一体化を進めている。
対米追従を優先し、国会論議は後回しにして、紛争の近接地域に自衛隊を出すことは、隊員を無用な危険にさらすだけだ。
核合意復帰が最優先
米国とイランの核問題を巡る対立で、中東海域の緊張は続いている。日本は中東に原油輸入の9割近くを依存しており、海上交通路の安全確保は欠かせない。
安倍首相は先週、来日したイランのロウハニ大統領と会談した。有志連合への不参加や、イランに接するホルムズ海峡とペルシャ湾を活動地域から外したことを説明し「理解」を得たとしている。
ただイランは経済制裁を続ける米国への反発を強めている。自衛隊派遣に積極的に賛同したわけでもない。
一方、日本は米国と、中東での情報を密に交換するとしている。
友好国であるイランに配慮した姿勢を見せながら、二枚舌のような対応では信頼を失いかねない。
そもそも中東の緊張は、トランプ政権がイラン核合意から一方的に離脱したことに起因する。
米主導の有志連合への参加は7カ国にとどまり、国際的な支持が広がっているとは言えない。
首相が仲介外交を買って出るなら、親密さを強調するトランプ氏に、核合意への復帰を粘り強く求め続けることが最優先だ。
ご都合主義で法運用
今回の閣議決定が、政権の都合のいいように法を解釈、運用していることも問題である。
派遣は防衛省設置法の「調査・研究」に基づくとしている。
政府が2001年の米中枢同時テロ後、海自艦船をインド洋に派遣する際にも適用した規定だ。
ただこの条文は抽象的で、拡大解釈の余地が大きい。しかも防衛相の判断のみで実施できる。
法の曖昧さを逆手に取って、海外派遣の既成事実を積む意図がのぞく。
インド洋への派遣時は、テロ対策特別措置法を適用するまでの一時的な措置だったが、今回は1年単位の初の長期派遣となる。
加えて問題なのは、船舶が攻撃されれば、武器が使用できる自衛隊法の海上警備行動に切り替えて対処するとしていることだ。
防衛省設置法の下で地理的制約なく自衛隊の活動範囲を拡大しておいて、行った先で不測の事態が生じたら別の法律で対処する―。
国会承認が必要のない法の規定を、政権の意図にかなうように組み合わせた、こんなやり方は不誠実だ。
閣議の歯止め形だけ
今回、政府は閣議決定という体裁をとり、国会報告を義務付けた。活動終了時や、閣議決定の内容を変更する際も国会で報告する。
だが国会に派遣を中止させる権限はない。政権の判断で自由に延長でき、歯止めにはならない。
現地には護衛艦1隻とP3C哨戒機、約260人の部隊が派遣される予定だ。早ければ来月から活動を始める。
派遣海域はイランだけでなく、イエメンなども含む紛争が頻発する地域の沿岸だ。
防衛省は「米軍からの防護要請は想定していない」とするが、米軍が自衛隊の眼前で攻撃され、防護を求めてくる可能性は否定しきれない。
陸上自衛隊を南スーダンに派遣した際は、部隊の日報の隠蔽(いんぺい)が問題となった。後から公開された日報には「戦闘」の記述があった。
自衛隊員に危険な任務を強いながら、国民の目を欺いて事実を隠すようなことが繰り返されてはならない。
憲法解釈を覆し、集団的自衛権の行使を可能にした安全保障関連法を強引に成立させた政権である。危惧は尽きない。通常国会で徹底的に論議すべきである。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2019年12月28日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。