【米国】:人種差別抗議 大きなうねりになった背景
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【米国】:人種差別抗議 大きなうねりになった背景
アメリカの多くの人々が怒っています。怒りは世界中に広がりました。きっかけは先月、黒人男性が白人警官から暴行されて亡くなった事件でした。それから、人種に関係なく、たくさんの人々が警察や人種差別に抗議する活動を始め、アメリカ全土で続きました。今、何が起きているのか、なぜこんなに大きな動きになったのか。私たちの周りにもいろんな偏見や差別があり、なくさなければなりません。ニュースに触れて、考えてみましょう。【久保勇人】
英国ロンドンで抗議するデモ参加者も「Black Lives Matter」と共通の標語を掲げた(AP)
パリでの抗議活動(ロイター)
まず、きっかけとなった事件と、これまでにどんなことが起きているか、おさらいしよう。
【おさらい】
▼5月25日 アメリカのミネソタ州ミネアポリスで黒人男性のジョージ・フロイドさん(46)が、白人警官に首を長い時間押さえつけられて死亡。その様子の動画がインターネットなどで広まった。
▼26日~ その映像を見て多くの人々が怒り、警察や人種差別への抗議活動を始め、アメリカ全土に広がった。フロイドさんが亡くなる時に言った「I can't breathe(アイ・キャント・ブリーズ=息ができない)」のほか、「Black Lives Matter(ブラック・ライブズ・マター=黒人の命は大切)」などの言葉を叫びながら、抗議の行進をしている。最初のころは一部が店を壊したり物を盗んだり放火したりし、警官らと衝突し、どちらにも多くの死傷者が出た。しかし警官の中には一緒に抗議する人も増えている。
▼29日 トランプ大統領が「略奪が始まれば、銃撃が始まる」とツイッターに書き、人々がさらに怒った。有名歌手のテイラー・スウィフトは「11月(の大統領選)で落選させる」と痛烈に批判した。事件の警官4人はその後逮捕・訴追されたが、遺族らは首を押さえつけた白人警官はより重い罪に問われるべきなどと、主張している。
▼31日 イギリスやドイツでも抗議活動が始まり、またたく間に世界中に広がっていった。
▼6月1日 トランプ大統領が、過激な抗議を軍隊で押さえ込むなどと強硬な姿勢をみせたため、批判がさらに大きくなった。抗議活動は平和的になり、警察の改革や人種差別をなくすことを求めて続いた。
▼5日 アメリカの首都ワシントンのバウザー市長が大統領を批判し、ホワイトハウス近くの場所の名前を「Black Lives Matterプラザ」に変え、通りには巨大な黄色い文字で描かれた。
▼6日 ワシントンで数万人もの群衆が参加して抗議活動が行われた。
▼9日 フロイドさんの故郷、テキサス州ヒューストンで葬儀がとり行われた。動画配信サービスが映画「風と共に去りぬ」の配信を一時停止。「人種に対する偏見を含んでいる」などとし、差別的描写への批判など示した上で再配信予定。
▼10日 フロイドさんの弟フィロニスさんが、下院司法委員会で涙ながらに証言。「黒人の命の価値は20ドル(約2100円)なのか」などと訴えた。この数日で米国各地で探検家コロンブス像が倒されたり破壊された。バージニア州知事は南北戦争の南軍リー将軍の像を撤去すると発表。英国でも奴隷貿易商人の像が、倒されたり撤去された。
なぜ、今、こんなにも大勢が怒っているのでしょうか。フロイドさんへの警官のひどい暴力を見て、黒人以外の人々も「黒人の命も大切なんだ」「もうこんなことはうんざりだ」などと抗議しています。これまで同じようなことが繰り返されてきたからです。
【歴史】アメリカに最初にアフリカの人が奴隷として連れてこられたのは約400年前。過酷な農作業などをさせられました。自由や権利はなく、本当にひどいあつかいを受けました。南北戦争で奴隷制度反対の北軍が勝ちましたが、実際は人種差別は続きました。(黒人は今「アフリカ系アメリカ人」とも呼ばれます)
1950~60年代に、マーチン・ルーサー・キング牧師らのもと、人種差別に反対し、すべてに平等を求める「公民権運動」が広がり、1964年にようやく人種差別が禁じられました。しかし、その後も白人の一部や、教育や仕事や司法といった社会の仕組みなどに偏見や差別が残り、今にいたっています。
【今の状況】欧米の報道などによると、アメリカの黒人の人口は全体の約14%ですが、警察に射殺された人の中で黒人の割合は約23%というデータもあり、ほかの人種よりとても高いです。武器を持っていたり、警察の正当防衛などもありますが、武器を持っていないのに殺される割合も、白人に比べて多いそうです。若い黒人男性では、亡くなる原因の上位に警察の暴力が入っています。無実でも有罪や実刑になる可能性も白人より高い。アメリカの黒人は普通にしていても、ほかの人種より警察に疑われたり、抵抗しないのに暴力を受けたり、殺されることを心配しなければならないというのです。一方で、不当に暴力をふるったり殺したりした警官は治安維持のためなどの理由で、罪に問われることも少ないそうです。
【同じような事件】今回に似た事件も、数え切れないほど起きてきました。例えば1991年にはロサンゼルスで黒人男性が警官4人に暴行を受け、翌年に警官が無罪になって大きな暴動が数日間続き、多くの死傷者が出ました。2012~14年には、武器を持っていない若い黒人男性2人が警官らに射殺され、ほかに警官に押さえつけられ今回と同じ「息ができない」と苦しみながら亡くなる事件も起きました。今回使われている言葉「Black Lives Matter」はそのころに広まりました。今年もジョギング中の黒人男性や自宅で寝ていた黒人女性が、元警官や警官に射殺されるなどの事件が続き、警察や差別への怒りが高まっていました。
【コロナと黒人】新型コロナウイルスも、アメリカの黒人と白人の格差などを明らかにしています。この感染症でアメリカは世界で最も多い11万人以上の死者を出していますが、黒人の死亡率は白人より2倍以上高いそうです。大都市シカゴでは人口で30%の黒人が、死者の70%を占めます。全体的に、白人よりも、入院したり死亡する割合がとても多くなる傾向があるそうです。
黒人は貧困の割合が高く、失業率も常に白人よりかなり高い。車ではなくバスなどの交通機関を利用する人、保険に入れず治療を受けにくい人、持病を抱えている人などの割合も多いとされ、これらもコロナの状況の背景との指摘もあります。さらに黒人や中南米系の人の中には、マスクで顔を覆うと偏見などから犯罪者と疑われて命の危険もあるのでは、と心配する人も多いそうです。
【大統領選挙】事件は11月の大統領選挙にも影響を与えそうです。再選を目指すトランプ大統領は、抗議する人々を力でおさえつけようとしたため批判が大きくなり、支持が減っています。民主党候補を確実にしたバイデン前副大統領は逆に、黒人らからの支持を増やしています。多くの人々は警察を改革したり、人種差別をなくすために、政治への積極的な参加や、選挙での投票を呼び掛けています。大統領選が今後どうなるかにも注目です。
◆久保勇人(くぼ・はやと)
1984年入社。静岡支局、文化社会部、スポーツ部などを経験。国内の事件、皇室、海外取材など担当。96年五輪前後の約3年間は、アメリカ南部ジョージア州アトランタ支局に赴任し、各地を取材した。
元稿:日刊スポーツ社 主要ニュース 社会 【話題・人種に関係なく、たくさんの人々が警察や人種差別に抗議する活動】 2020年06月14日 08:00:00 これは参考資料です。転載等は各自で判断下さい。