【社説①・12.10】:シリア政権崩壊 内戦と抑圧が終わる契機に
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・12.10】:シリア政権崩壊 内戦と抑圧が終わる契機に
13年を超えるシリア内戦に終止符を打ち、人道状況の改善と平和構築への転機となるよう、国際社会は支援を強めるべきだ。
シリアの反体制派が大規模攻勢をかけて首都ダマスカスを掌握し、2000年の就任から独裁政治をふるったアサド大統領はロシアへ亡命した。親子2代にわたり半世紀以上続いた強権体制が瓦解(がかい)した。
ただ、さまざまな政治勢力と、支援する国々の利害が複雑に絡むシリアで、権力移譲が円滑に進むかは不透明だ。過激派が主導する反体制派の統治能力も未知数で、周辺国を含めて情勢が不安定化する恐れもある。
シリアでは、中東民主化運動「アラブの春」が波及し、11年3月に反政府デモが本格化。政権側の弾圧に反体制派が武力で対抗し、内戦に陥った。一時は過激派組織「イスラム国」(IS)も台頭した。内戦により40万人以上が死亡し、国外への難民は数百万人に上るという。
近年、戦闘は膠着(こうちゃく)状態となっていたが、11月下旬から攻勢を強めたイスラム過激派「シリア解放機構」が10日余りで北部、中部の要衝を次々に制圧した。
背景には、これまでアサド政権が頼ってきたイランとロシアの影響力低下がある。親イランのレバノン民兵組織ヒズボラはイスラエルとの交戦で打撃を受け、ロシアはウクライナ侵攻で手いっぱいの状況だ。シリアへの対応が弱まった間隙(かんげき)を反体制派が突いたと言えよう。
市民への弾圧を繰り返し、化学兵器まで使用した疑惑があるアサド政権の崩壊に、国連や欧米諸国は歓迎する声明を表し、情勢安定化に協力する考えを示す。一方で、欧州連合(EU)内からは「歴史的変化はリスクも伴う」との懸念も聞かれる。
シリア解放機構は国際テロ組織アルカイダ系組織が前身で、米国や国連からテロ組織に指定される。指導者のジャウラニ氏は「穏健な統治」を目指すとしているが、バイデン米大統領は動向を注視すると強調。シリアで軍の駐留を続け、IS掃討へ拠点を空爆したと発表した。
気がかりなのは、トランプ次期大統領の姿勢だ。自国第一主義の持論から「米国は関与すべきでない。私たちの戦いではない」とSNSに投稿した。
これまで米国やロシア、イラン、トルコはそれぞれ影響力の拡大を狙ってシリアに介入し、混迷を深めた責任がある。
治安を回復させる上で、大国が権益を優先させる振る舞いは許されない。政治信条や地域的な立場が分かれる各勢力の協議を後押しし、民主的政権の早期確立に努めなければならない。
国連によると、今回の戦闘激化で37万人超が住まいを追われた。長期の内戦と圧政に苦しむシリアの人々が安全な暮らしを取り戻せるよう、国際社会はあらゆる手を尽くす必要がある。
元稿:京都新聞社 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月10日 16:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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