《社説①・12.10》:アサド政権崩壊 圧政と戦乱に終止符を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①・12.10》:アサド政権崩壊 圧政と戦乱に終止符を
13年にわたる内戦を経て、シリアの独裁体制が瓦解(がかい)した。圧政と戦乱に終止符を打ち、新たな政権への移行に確かな道筋をつけなくてはならない。
反体制派の武装勢力が首都ダマスカスを掌握し、アサド大統領は家族と共にロシアに亡命した。父の代から半世紀余に及んだアサド家による支配の終焉(しゅうえん)である。
武装勢力は先月末に北部の都市アレッポを制圧した後、10日余りで政権を倒すに至った。政府軍は各地で、ほとんど応戦せずに撤退したと伝えられている。
政権の後ろ盾となってきたロシアや親イラン武装組織の軍事支援が弱まった隙を突き、反体制派が一気に攻勢に出た形だ。ロシアはウクライナへの侵攻に戦力をそがれ、レバノンの民兵組織ヒズボラもイスラエルとの交戦で深手を負い、余力を失っていた。
シリアの内戦は、2010年代初めに中東各国に波及した民主化運動「アラブの春」のデモを、アサド政権が武力で弾圧したことを発端に全土に広がった。死者は40万人を超す。1200万人以上が避難を強いられ、そのおよそ半数が難民として国外に逃れた。
周辺国や欧米、ロシアがそれぞれの利害や思惑で介入したことが事態をこじれさせ、過激派勢力の乱立にもつながった。今回、攻勢を主導したシリア解放機構は、国際テロ組織アルカイダ系のヌスラ戦線を前身とする。
反体制派には多様な勢力が入り交じる。それだけに、新政権への移行をめぐって対立が激化し、武力衝突が再燃する懸念がある。内戦下で一時、隣国イラクにまたがる地域に支配を広げた過激派組織「イスラム国」(IS)の残党が存在することも気がかりだ。
国外からの軍事介入の恐れもある。ロシアは海軍と空軍の基地をシリアに置く。その権益を何としても手放すまいとするだろう。
トルコは、隣国でクルド人の武装勢力が伸長し、国内の分離独立の動きにつながることを警戒している。イスラエルは、占領下に置くゴラン高原の安全を確保するためだとして、既にシリア側の緩衝地帯に軍を配置したという。
再び戦火が起こるのを防ぎ、難民や避難民の早期の帰還に結びつける必要がある。関係各国はこの上、自国の利益を図ろうとする行動を取ってはならない。
シリアの人々が、対話や選挙の民主的な手続きを踏んで新政権を発足させられるよう、国際社会がどう関与していくか。日本もまた果たすべき役割がある。
元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月10日 09:31:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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