【社説・12.13】:新しい認知症観 支え合う社会の出発点に
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・12.13】:新しい認知症観 支え合う社会の出発点に
物忘れや徘徊(はいかい)を繰り返す高齢者と介護する家族を描き、高齢化社会へ問題提起した有吉佐和子さんの小説「恍惚(こうこつ)の人」が発刊されたのは1972年だった。認知症という言葉はまだなかった。
半世紀以上が経過し、日本の人口が減る中で、認知症になる人は増え続けている。みんなで支え合う仕組み作りを急がなくてはならない。
認知症施策の指針となる基本計画が閣議決定された。1月施行の認知症基本法に基づき、初めて策定した。
厚生労働省によると、認知症の高齢者は2040年に584万人に上る。前段階の軽度認知障害と合わせると約1200万人で、高齢者の3・3人に1人となる見通しだ。
認知症は誰もがなり得る。人ごとでない。基本計画は冒頭に「新しい認知症観」の普及を打ち出した。
認知症になってもできること、やりたいことがある。本人の意思が大切にされ、住み慣れた地域で生きがいや希望を持って、安心して暮らせるという考え方だ。人権の尊重が根底にある。
まずは、私たち一人一人が自分のこととして認識を新たにしたい。将来への備えにもなるだろう。
計画策定には認知症の人や家族が議論に加わった。「何も分からなくなってしまう病気」といった偏見や誤解をなくし、共に支え合う社会にしたい。そうした意見を計画に反映させた。
基本法は地域事情に応じた計画を自治体に求めている。国と自治体は協力し、認知症の人が利用する移動手段や施設のバリアフリー化、相談体制の充実、社会参加の機会創出などに努める。
福岡市は具体的な取り組みを進めている。昨年9月に認知症フレンドリーセンターを開設した。認知症の人と家族が気軽に立ち寄れる交流や支援の拠点施設で、当事者が企業の商品やサービスの開発に携わったり、支える側に回ったりする機会も提供する。
市民が理解を深める場所でもある。視野が狭く、案内表示や障害物に気付きにくい特性が疑似体験でき、介護の注意点を学べる。
当事者の視点はまちづくりに欠かせない。市は認知症の人が分かりやすい表示、床と壁の色分けによる動線やトイレの案内を地下鉄の駅に導入した。にぎやかな構内で混乱しないように、防音材を使って周囲の音もできるだけ小さくしている。
施設を訪れた人は開設から1年余りで1万人を超えた。市の予想をはるかに上回る数字に、認知症への関心の高さがうかがえる。
認知症の人が安心して暮らせる社会は、きっと誰にとっても住みやすいはずだ。新しい認知症観を幅広い年齢層の人と共有したい。
併せて介護や福祉に従事する専門職の待遇を改善し、最前線で支える人を確保しなければならない。
元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月13日 06:00:00 これは2自で判断下さい。
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