【社説②・01.13】:成人の日 非効率な遠回りも楽しみたい
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②・01.13】:成人の日 非効率な遠回りも楽しみたい
変化のスピードが速く効率が重視される時代に大切なものは何なのか。これからの日本を支える若い世代が思い巡らせる一日になってほしい。
きょうは「成人の日」である。2006年生まれの18歳、109万人が晴れて新成人となった。
18歳は大学受験を控えた人も多く、大半の自治体は、主催する成人式の参加対象者を従来の20歳としている。18歳を対象に式典を開いてきた三重県伊賀市や大分県国東市も市民らの要望を受け、今後は20歳を対象に戻すという。
このため18歳は大人の仲間入りだとの実感を持ちにくいかもしれないが、様々な契約を結ぶことが可能となり、クレジットカードも作れるようになる。
その分、多重債務などのトラブルに巻き込まれるリスクが高まる点にも注意が必要となる。
高額な報酬を誘い文句に若者を犯罪に加担させる「闇バイト」が横行している。手っ取り早くお金を稼げる話などない。遠回りに見えても、地道な努力を積み重ねることが将来につながるはずだ。
最近は若者を中心に、費やした時間に対する効果を重視する「タイムパフォーマンス」という価値観が広がり、「タイパ」という言葉が定着している。
情報を瞬時に分析する生成AI(人工知能)の発達が、効率重視の風潮に拍車をかけたとされる。映画を倍速で視聴する若者の姿を紹介した新書も話題となった。
こうした若者の行動の背景には情報過多の社会で友達との話題に乗り遅れたくないための処世術や、余計な時間を使うことを過度に嫌う気質もあるようだ。
時間を有効に使いたいという考え方自体は否定すべきものではない。日本の国力が低下し、希望の持ちづらい社会で、効率的に目的を達成するための行動が広がるのは、ある意味では必然だろう。
だが、タイパ主義が行き過ぎると、回り道をすることが「無駄」や「失敗」とみなされ、挑戦する心が失われないだろうか。
科学や産業の歴史を見ても、革新的な発見や発明は、無数の失敗や、一見無駄に見えるような遠回りの過程で生まれることが多い。教育現場では読解力向上のため、1冊の本を長期間かけて読む「精読」を取り入れる学校もある。
今の若い世代は、真面目でボランティア精神なども旺盛だと言われる。そうした美点を生かしつつ、未知の世界に飛び込む気概や回り道を楽しむ心の余裕も持ってみてはどうだろうか。
元稿:読売新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年01月13日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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