【社説・12.12】:平和賞の演説 被爆者の言葉胸に刻もう
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・12.12】:平和賞の演説 被爆者の言葉胸に刻もう
ひとたび核兵器を使うとどうなるか。被爆者が身をもって証言し、賛同の輪を広げたからこそ、世界は80年近く核の惨禍に遭わずに済んだ。
日本原水爆被害者団体協議会(被団協)の功績にノーベル平和賞が贈られた。この機に「核なき世界」への誓いを新たにしたい。
ノルウェーのオスロで授賞式があり、代表委員の田中熙巳(てるみ)さん(92)が演説した。母親と目の当たりにした長崎市中心部の惨状を詳細に語り、被団協の歩みを振り返った。
「核兵器は人類と共存できない」。田中さんの言葉は説得力を帯びて伝わったのだろう。演説が終わると、会場の人たちは立ち上がって大きな拍手を送った。この共感が核廃絶へのうねりを起こす力になると信じたい。
1956年に結成された被団協は「ふたたび被爆者をつくるな」を合言葉に、国内外で証言活動を続けてきた。非人道的な核兵器は使ってはならないという「核のタブー」の確立に貢献したことが高く評価された。
授賞式に出席した被爆者17人はいずれも高齢である。
広島と長崎で被爆した人の平均年齢は85歳を超えた。全国の被爆者は今年3月末で10万6825人となり、前年度より7千人近く減った。かつて全都道府県に組織された被爆者団体は、11県で解散、あるいは活動を休止した。
被爆2世や若い世代が被爆体験を継承するようになったのは心強い。被爆者も「命ある限り」と奮闘しているが、核廃絶の道は険しい。
ロシアによるウクライナ侵攻、パレスチナ自治区ガザでの戦闘は続き、世界で核兵器使用の危機が高まっている。
核の使用を示唆して他国を脅す指導者もいる。「小型兵器なら使ってもいい」「戦争を早く終わらせるためなら仕方がない」。独善的な言動を許してはならない。
ストックホルム国際平和研究所の推計によると、世界の核弾頭数は今年1月時点で1万2121発に上る。総数が減少する半面、使用可能な弾頭数は増えている。
地球上に核兵器が存在する限り、使われる危険があると被団協は訴えてきた。世界の指導者は今こそ、被爆者の証言と警告に耳を傾けてもらいたい。
核弾頭の約9割を保有する米国とロシアは、両国間で唯一残る核軍縮合意である新戦略兵器削減条約(新START)を更新すべきだ。2026年に失効しても、核保有数を増やしてはならない。英国やフランス、中国などの保有国も同調してほしい。
核兵器禁止条約には今年9月までに94カ国・地域が署名した。米国の「核の傘」に依存する日本は、核保有国が参加していないことを理由に背を向けたままだ。
被団協の願いに応え、来年3月の締約国会議にオブザーバーで参加すべきだ。それが戦争被爆国の責務だろう。
元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月12日 06:00:00 これは2自で判断下さい。
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