【安倍政権】:五輪、万博、好景気 「夢よもう一度」という大いなる幻想
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【安倍政権】:五輪、万博、好景気 「夢よもう一度」という大いなる幻想
「日本全体を元気にするため、『オールジャパン』の体制で取り組みたい」――。国威発揚をムキ出しにした首相の破顔一笑には、悪い予感しかしない。
2025年の万博開催地が大阪に決まった。大阪では1970年以来55年ぶりの誘致に、関わった政官財の関係者や地元市民、メディアまでもが祝賀ムード一色で、つくづく日本はおめでたい国だと知らされる。
加えて会場整備に1250億円以上も投じる予定だが、財源は固まっていない。経済界に約400億円強の負担を割り当てたが、前回と違って今は株主が企業の実利に直結しない出費を厳しく監視する世の中だ。
当初は関西の有力企業からも「一過性のイベントに資金を投じることはできない」との声が上がったほど。前回の「夢よ、再び」で、企業負担によるユニークなパビリオン群の再出現を期待するだけムダだろう。
万博に難色を示す財界をなだめ、一気に誘致までこぎつけた安倍政権と松井府政の動機も不純だ。会場となる人工島「夢洲」はバブル崩壊で開発が頓挫し、空き地が広がる負の遺産。東京都のお荷物だった臨海副都心部を五輪開催を大義名分に再開発を進めているのと同様に、万博開催もゼネコンを儲けさせ、政治献金を吸い上げる舞台装置に過ぎないのだ。
浮かれてばかりもいられない(万博開催決定に沸く大坂の人々・右)/(C)共同通信社
■終わったビジネスモデルに巨費投入の狂気
だから「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに掲げたものの、具体的なビジョンは曖昧なまま。ハナから「カネと利権ありき」の計画で、理念や構想など後回し。会場の跡地利用のメドすら立っていない。こんなズサンな計画に、大阪市は会場までの地下鉄延伸や道路拡張のインフラ整備に、730億円を投じるとは狂気の沙汰だ。
そもそも五輪も万博も、すでに終わったビジネスモデル。五輪は巨額投資を回収できず、どの開催地も莫大な負債を抱え、火の車だ。ついには世界中で手を挙げる都市が消えてしまった。
万博はそれ以上で、大阪の「最大のライバル」だったパリは今年、財政上の理由から立候補を取り下げ。万博の来場者数はダダ下がりで、7000万人を超えた10年の上海を除けば、2000万人前後。6400万人を集めた前回の大阪万博の約3分の1にとどまる。そのため、入場料などで事業費を賄えず、来場者数1800万人と目標の半分に満たなかった00年の独ハノーバー万博は、約1200億円もの赤字を抱え、政府と地元が穴埋めするハメになった。
大阪万博の決定直後、思想家で神戸女学院大学名誉教授の内田樹氏は〈「金が欲しい」以外に何の動機もない万博の開催がどのような悲惨なかたちで終わるのか、想像すると悲しくなってきます〉とツイートしたが、大阪万博はレガシーどころか、東京五輪との共倒れすら危ぶまれるのだ。
全ては、この人のために(C)共同通信社
◆「経済効果2兆目」強弁の面々に前科アリ
改めて内田樹氏に聞いた。
「万博は1930年代ごろには役割を終えた時代遅れの国際イベント。ネット普及に伴うグローバル化の時代に、一カ所に未来の最先端技術を展示し、人を集めようとする発想自体が前時代的でムリがあります。それこそ、国威発揚くらいしか存在意義はない。安倍政権は万博のテーマとして、最先端医学や健康寿命に焦点をあてると息巻いていますが、社会保障費や大学の研究費を削りに削った政権に、その資格はありません。五輪や万博にたれ流す前に、大事な税金は国民生活の充実に回すべきです」
権力行使の何たるかを理解せず、政治介入大好きの強権首相のことだ。万博を仕切らせたら、会場展示のPRと引き換えに、最先端医学の現場にまでくちばしを突っ込むのは目に見えている。
こんな不気味な万博の来場者数は約2800万人、経済波及効果は約2兆円と、国と大阪府はソロバンをはじくが、積算根拠はまったくの不透明だ。この数字を信用する方がどうかしている。
万博誘致が持ち上がったのは2014年。言い出しっぺは大阪府・市特別顧問の堺屋太一氏だ。このアイデアに当時大阪市長だった橋下徹氏と大阪府の松井知事が飛びついたのだが、その2年前に堺屋氏は「大阪10大名物」を発案。そのひとつに15年の道頓堀完成400周年に合わせ、長さ2キロの巨大プールを整備し、「世界遠泳大会」の開催を打ち出した。
どれだけの人が覚えているかは疑問だが、「道頓堀プール」は地元企業の支援を得られず、2キロから800メートル、最後は80メートルまで長さを縮減した揚げ句、16年1月に計画中止がひっそりと発表された。計画が頓挫した道頓堀プールの経済効果について、堺屋氏は当初、「2020年までには東京オリンピックより大きな経済効果が確実に出る」と自信たっぷりに豪語したものだ。
その反省も自己批判もせず、同じ面々が「大阪万博で経済効果は2兆円」とブチ上げているのだから、マユツバだ。万博決定後、橋下氏は「お金の問題もいろいろあるかもしれないけど、景気は気から」とごまかしている。
時代遅れの国際イベントに「日本全体を元気にする」(安倍首相)だけの経済効果を期待するのは、八百屋で魚を求めるに等しい。
■米国発カジノありきの非国民選別イベント
「大阪万博は東京五輪よりも、えげつない構図で、夢洲にカジノを整備する口実に過ぎないのではないか」と、前出の内田樹氏はこう続けた。
「万博のオフィシャルプランナーに米カジノ企業5社が名を連ね、うち1社の『ラスベガス・サンズ』のアンデルソン会長はトランプ米大統領の大口献金者です。昨年2月に安倍首相が訪米した際、首脳会談の前日にトランプ・アンデルソン両氏は会食。翌日の首脳会談で安倍首相はサンズの日本参入を持ちかけられた、と米国のニュースサイトは報じました。アンデルソン会長、トランプ大統領、安倍首相、松井知事と分かりやすい命令系統で、日本の法を改めてまで万博を大義とした“カジノありき”の計画を進め、インフラ整備などの名目で巨額の税金を、米国に献上するわけです。そのおこぼれにあずかる人々はホンの一握りで、万博開催後に残るのはカジノ以外は廃虚だけ。長きにわたって大阪の人々が負債に苦しんでも、6年半後の万博開催時には安倍首相も松井知事もさすがに、お役御免で“後は野となれ”の感覚なのでしょう」
汚れた五輪と万博の「大いなる幻想」に酔いしれ、「日本」「日本」と力んでいる人々の気が知れないが、メディアも万歳ムードをあおっているから恐ろしい。コラムニストの小田嶋隆氏はこう言った。
「五輪も万博も招致段階では賛否両論あったのに、決まった瞬間に反対の声を上げにくいムードをメディアが助長する。批判すれば、歓喜の人々に水を浴びせる嫌なやつ扱いで、反対してもメリットがないと諦め、我慢を強いられる。これが町内会の募金や学園祭レベルならまだしも、国家ぐるみで反対派を指弾する空気が醸造されるから怖い。万博への賛否が愛国強制と非国民選別のリトマス試験紙となりかねない薄気味悪さを今から感じます。五輪も含めた国家総動員体制が、あと6年半も続くかと思うと、気がめいってきます」
五輪、万博に浮かれていれば、愛国心を押しつける独裁首相の思うツボ。多くの国民は夢から覚めなければいけない。
元稿:日刊ゲンダイ 主要ニュース 政治・経済 【政治ニュース】 2018年11月27日 17:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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