「老人タイムス」私説

昭和の一ケタ世代も高齢になりました。この世代が現在の世相をどう見て、考えているかーそのひとり言。

        ”からゆきさん”の貴重な記録

2008-07-05 05:47:24 | Weblog
”からゆきさん”を専門に研究されている大場昇さんから新刊の「世界無宿の女
たち」(文藝春秋発売)を頂戴した。明治、大正、昭和の70年の間、体をはって海
外でたくましく生きてきた女性たちの記録である。昔の唄風にいうと、彼女らの足
跡は”北はシベリア、南はジャワ”西はザンジバル島(タンザニア)にまで及んでい
た。

大場さんの推定によれば、彼女たちの累計は30万人にも上るという。僕は10数年
前、スマトラのメダンに滞在した関係で、同地の”からゆきさん”のことを調べていた
大場さんと知り合った。僕が滞在した頃のメダンには日本人居住者は100人ぐらい
しかいなかったが、大正6年には299人もいた。その大半は”からゆきさん”とその
関係者であった。明治時代の終わりには500人もの”からゆきさん”がいたという古
文書もある。シンガポールの日本人墓地には戦前の”からゆきさん”の墓がずらりと
並んでいる。

大場さんは、この本の中で、8人の女性を扱っているが、そのうちの一人、出上キク
さんは大正8年の「シベリア出兵」のさい、軍の諜報活動に従事、その功績により、第
二歩兵連隊長から感謝状と金一封を授かっている。

他の7人の記録もそうだ。苦界に身をおいた女性の記録ではない。大和撫子のたくま
しい記録である。このような記録は歴史の表面には出てこないが、明治、大正、昭和
のあの時代の側面史であり、貴重である。