◎立喰師列伝(2006年 日本 62分)
原作・脚本・監督/押井守 音楽・出演/川井憲次
出演/吉祥寺怪人 兵藤まこ 石川光久 鈴木敏夫 樋口真嗣 山寺宏一 立木文彦
◎原作が読みたいとおもってから何年経ったのだろう?
戦後まもない頃から順に登場する立喰師たちの伝記を独白してゆく事で、アナーキーとも暗部とも傾斜した拘りともいうべき歴史が語られてゆく訳だが、しかし、さにあらず、語られる内容は多分に吉本隆明的な共同幻想世界にほかならないのである。
それは、おそらくはぼくらがこうした破天荒なアニメの第一世代であって、この作品に語られている世界観を多少なりとも感覚とか直感とかそうした言葉でもって捉えられることがかろうじてできる世代であるため、そうした共同幻想を抱くことがあるいはできるかもしれないという多少の期待を持てるからにほかならない。
それにしても、この映画がぼくに与えた影響は大なるものがあって、中でも最大級のものが「月見そば」の作り方だ。そうか、卵は麺の上に乗せてからそこへ熱湯をかけるのだな、たしかにそうだ、そうでないと雲居にかかる満月の美しさを堪能できないものな、まさしくそのとおりだ、とおもったことだ。
以来、ぼくは月見そばを食べる際、これをかたく厳守しているし、むろん、立ち食い蕎麦を注文したときなど、この鉄則を守っているかどうかをじっくりと観察することにしている。これについては大仰ではなく、それがあたかも生まれ落ちたときからの習慣ででもあるかのように淡々と実行し続けているのである。