デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

灯りを消してジャッキー・グリースンで踊ろう

2008-07-20 08:19:18 | Weblog
 ・・・ジョン・コルトレーン、ソニー・ロリンズ、アート・ブレイキーなどのモダン・ジャズのレコードが山とありました。ところが彼がかけたのはジャッキー・グリースンでした・・・水谷良重、現二代目水谷八重子が半生を記した著書「あしあと」の一節で、ジャズ歌手としてデビューしただけあって、スタンダード・ナンバーやジャズメンの名前がすらすら出てくる。一女優の半生は、日本の芸能史であるとともに日本のジャズ史の足跡をみるようだ。

 ジャッキー・グリースンと聞いて映画ファンが思い出すのは、ポール・ニューマン主演の「ハスラー」であろうか。ニューマンと白熱のビリヤード・シーンを展開したミネソタ・ファッツ役を演じていた。俳優でありながらオーケストラを率いる指揮者、それも女性を音楽で酔わせるテクニックなら右に出るものはいないという音の魔術師である。甘美なメロディをストリングスでどこまでも甘くというのはムード・ミュージックのセオリーなのだが、グリースンはただ甘いだけでなく、その曲の最も美しい部分をより美しく表現するツボを心得ているのだ。BGMとして聞き流されるムード音楽という括りでは収めきれない高い音楽性を持っている。

 うっとりとした女性のジャケットは、「Music to Change Her Mind」で、タイトル通り彼女の心を変える音楽の玉手箱だ。「You've Changed」に始まり「All by Myself 」、「You and the Night and the Music」と、口説き文句が倍加して出てくる曲が並び、究めつけは「Dancing in the Dark」である。フレッド・アステアがミュージカル「バンド・ワゴン」で優雅なダンスを披露した曲で、「ザッツ・エンタテイメント」でも名場面として紹介されたほどの踊るには最高の曲のひとつである。グリースンのこの曲で踊るなら、そっと抱き寄せるだけでいい。音の魔術は言葉を必要としないだろう。

 冒頭の回想は水谷良重が白木秀雄の部屋に行ったときのことだ・・・何も考える暇もなく生まれて初めて、一線を、越えてしまったんです・・・当時一流のドラマーは、グリースンを選ぶ一流のプレイボーイでもあった。
コメント (48)
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