デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

やるもんだ!ハンク・ジョーンズ

2010-07-11 07:46:40 | Weblog
 91歳で今年5月に亡くなった現役最長老ピアニスト、ハンク・ジョーンズを最初に聴いたのはどのアルバムか?と訊かれたらほとんどのジャズファンは「サムシン・エルス」と答えるだろう。モダンジャズを代表する作品だけに聴く機会も多く、それもジャズを聴き出したころに巡り会う確立が高い。針を降ろして直ぐに始まるピアノの荘重なイントロと、洗練されたソロパートはジャズを聴き慣れない耳に強烈な印象を与えた。      

 パーカーを初め、マイルス、ベニー・グッドマン、ミルト・ジャクソン、チャーリー・ヘイドン、渡辺貞夫等々、ジャズの歴史を生きたハンクの共演者は幅広い。あらゆるスタイルのジャズに対応できる柔軟性を持ち、それでいて決して独自のスタイルを変えなかった人である。エラ・フィッツジェラルドの伴奏者を5年続けただけあり歌伴も見事で、CBSスタジオのスタッフ・ピアニスト時代にはフランク・シナトラやビリー・ホリデイ、そして62年にマリリン・モンローがケネディ大統領の誕生パーティで歌った「ハッピー・バースデイ」の伴奏を務めたのもハンクだった。ピアニストとしての高い実力と、人としての信頼力の厚さが認められたのだろう。

 ゴールデン・クレスト盤の「Gigi」は、邦題「恋の手ほどき」とタイトルが付いたミュージカル映画の曲を取り上げたアルバムだ。「マイ・フェア・レディ」を作曲したフレデリック・ロウの作品をハンクは、まるでピアノの手ほどきをするように丹念に音を紡いでいく。バックはギターのバリー・ガルブレイスと、スタジオミュージシャンと思われる無名のベースとドラムなのだが、完璧なサポートだ。この編成でポピュラーな歌曲、そして1曲あたり3分程度の短い演奏となるとイージーリスニングに聴こえるが、随所にジャズのエッセンスをちりばめ、ハンク独自のピアノ美学を構築している。

 「サムシン・エルス」でも、このリーダーアルバムでもピアノに向かう姿勢は同じだ。控え目にならないサイド作と、前面に出過ぎないリーダー作、歌うこととスイングすることを常に心掛け、正統派のピアノスタイルを貫いた人柄が偲ばれる。大手家電メーカーのテレビCMで、ハンクの優しい眼差しと美しいピアノを初めて知った人もいるだろう。どの世代をもジャズピアノの虜にしたハンク・ジョーンズ、やるもんだ!
コメント (21)
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