デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

パティ・ペイジの薬指は長いか

2011-08-21 08:04:31 | Weblog
 書店の平台に「薬指の長い女は男に惚れやすい」という人目を引く本が積まれていた。サブタイトルは「人間の行動を支配する脳と心のホルモン学」で、脳内分泌物質が脳と心に与える影響を解説したものらしい。固いタイトルでは売れない本も、この題名だと興味を示すとみえて、近くにいつも愛読している哲学書(ということにしておこう)があったので立ち読みしながら観察していると若い女性ばかりが手にしている。

 惚れやすい内容の曲といえば真っ先に思い浮かぶのは、「アイ・フォール・イン・ラヴ・トゥー・イージリー」で、邦題も「惚れっぽい私」と分かりやすい。シナトラとジーン・ケリーが共演した映画「錨を上げて」の主題歌で、シナトラ扮する水兵さんがハリウッド・ボウルのステージでピアノを弾きながら歌っていた。作詞したのはサミー・カーンで、当時新人だったカーンを指名したのはシナトラだったというからありきたりではないラヴソングを歌いたかったのだろう。恋の昂ぶりを見事に映した美しいバラードで、歌詞の如く恋多き男シナトラの歌唱が群を抜いているのは経験が豊富だからかもしれない。

 恋の経験にかかわらず多くのシンガーが取り上げており名唱は数知れずだが、パティ・ペイジもこの曲をしみじみと歌っている。ペイジといえばテネシー・ワルツのイメージが強烈でジャズヴォーカル・ファンも見逃しがちだが、「The West Side」と対をなすこの「The East Side」は数あるペイジのアルバムで最もジャジーな1枚だ。それもそのはず、編曲は女性シンガーに惚れっぽいピート・ジゴロ、いやルゴロで、ピート・カンドリやラリー・バンカー、レッド・ミッチェルがオーケストラに加わっている。艶と伸びのある高音とややハスキーがかった低音で軽くフェイクするあたりは常にポピュラー界の先頭に立っていた貫禄といえよう。

 観察記録を記すと、そのタイトルの本を手にする女性は必ず自分の薬指を見る。自身の恋愛体験を重ねるのだろうか、それが当っていようと外れていようとクスリと笑う。そしてページを開いて納得したように軽くうなずき、再び薬指の長さを確認している。始まったばかりの恋であれ、終わった愛であれ、女性がそれを思い出す顔は美しい。その本に惚れやすい男性のことが書かれているのかは不明だが、もし記述があれば女に惚れやすい男が長いのは鼻の下と書いてあるだろう。
コメント (16)
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