デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

エヴァ・ダイアナ嬢に会ったかい?

2011-11-06 07:02:52 | Weblog
 「Eva Diana」、ジャズファンなら一度は目にしている名前だ。エヴァからはヒトラーの愛人のブラウンや、こちらは「Ava」だが女優のガードナーといった悪女をイメージさせ、またダイアナからは高貴な雰囲気が漂う。モード盤をお持ちの方は早速取り出してみよう。いまにも語りかけ、音が聴こえてくるようなジャケットの肖像画にそのサインがある。モードはわずか30枚の作品をリリースしただけで消滅したハリウッドのレーベルで、一部ウイリアム・ボックスが描いたものもあるがほとんどはエヴァの手による。

 モードが設立された57年はハードバップ全盛期で、アレンジを偏重するウェストコースト・ジャズが衰退の一途を辿るころだった。積極的に新人を起用したレコード制作の志は高くても、時代の波に乗れなかった悲劇のレーベルである。リリース数が少ないこともあり、リーダーとしてひとりの重複がなく、またこのレーベル以外にリーダー作が見当たらないプレイヤーもいるのが特徴だ。ジョアン・グラウアーもそのひとりで、バディ・クラークとメル・ルイスをバックに軽快なピアノを響かせる。女流ピアニストは珍しくないが、実力を伴った美人となるとせいぜいユタ・ヒップくらいでそう見当たらない。

 ハンプトン・ホーズに似たタッチで、いきなり聴くとまだ10代の女性とは思えないほどフレーズにふくらみがあり、可憐さが残る美貌を想像つかないほどタッチもインパクトがある。デビュー盤らしく「ザ・ソング・イズ・ユー」や「四月の想い出」というスタンダード中心で素直な解釈は汚れを知らないお嬢さんといった趣きだ。なかでもリチャード・ロジャースとロレンツ・ハートの名コンビによる「ジョーンズ嬢に会ったかい?」が素晴らしい。この後も活動を続けていたならウェストコーストの紅一点のピアニストとして注目を浴びたかもしれないが、それがグラウアーにとって幸せな選択とは限らない。美人ゆえの曲がり角であったろう。

 肖像画といえばマリー・アントワネットを描いたことで有名な画家ヴィジェ・ルブランがいる。アントワネットが他の画家よりも贔屓にしたのはより美しく自分を描くことができたからだと推測できるが、ルブラン自身かなりの美形である。美しい女性だからこそ美しい女性をより美しく描けるとしたらエヴァ・ダイアナはグラウアー以上に美しい女性だったかもしれない。壁に飾るだけで美女と同じ空間にいるようで得した気分になる。
コメント (14)
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