デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

オールド・ファッションから温故知新を聴く

2011-11-13 08:25:41 | Weblog
 ♪I'm old fashioned, I love the moonlight I love the old fashioned things・・・わたしは古風なの、古いものが好き、アイム・オールド・ファッションドの歌いだしである。1942年に公開されたミュージカル映画「晴れて今宵は」の挿入歌で、当時は主演のフレッド・アステアが歌ってヒットした歌物なのだが、名唱は?と訊かれても多くのシンガーが取り上げているのにもかかわらずよほどのヴォーカル・ファンでない限り咄嗟に出てこない。

 それはおそらくこの曲を知った方は「ブルー・トレイン」であり、更にグレイト・ジャズ・トリオをバックにした渡辺貞夫氏の名演から、ヴォーカルよりもインスト・ナンバーとしてのイメージが強いからだろう。コルトレーンの名盤は57年、この曲をアルバムタイトルしたナベサダは76年、そしてこちらはヴォーカルだが同じくアルバムタイトルでソロデビューしたマルガリータ・ベンクトソンは2006年、勿論その間にも多くのプレイヤーやシンガーが取り上げているのだが、ある程度の期間を置いて演奏され歌われる曲である。急速に時代が進む中、ふと周りを見ると新しいものばかりで古いものを忘れがちな世相に警鐘を鳴らす曲かもしれない。

 マルガリータはスウェーデンのアカペラ・ユニット「ザ・リアル・グループ」のメンバーで、その美しいソプラノ・ヴォイスに注目された方もいよう。デビューアルバムとはいえ、20年以上のキャリアを持つからこそ、この古いものが好きという歌詞を自然に歌えるというものだ。トップを飾るタイトル曲に続きクルト・ワイルの「ディス・イズ・ニュー」という選曲が心憎い。古いものこそ新しいということだろうか。スタンダード中心の幅広い選曲からはワーデル・グレイの「トゥイステッド」という難曲にも挑戦しており、高音域ではやや不安定さもあるが、それを充分補える縦横無尽のスキャットと表現力は見事なものだ。

 アイム・オールド・ファッションドはジョニー・マーサーが詞を書き、ジェローム・カーンに作曲を依頼した曲だが、Wikipediaによるとカーンが受け取った歌詞を奥さんに読み聞かせると、カーンと琴線に響き感激のあまりマーサーにキスしたという。歌詞からは古風な生き方は時代遅れではなく、寧ろその生き方こそ新しいものであり普遍的なものだと気付かせてくれる。時代遅れという単語を、昔から変わらぬものを愛するという価値観に転換した詞をじっくり味わってみたい。

コメント (19)
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