デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ヘイリー・ロレンの息づかいが聴こえた

2012-03-18 08:31:38 | Weblog
 戦後最悪の災害となった東日本大震災の発生から1年が過ぎ、追悼式には消えることのない悲しみを抱えながらも前を向いて生きていく被災者の様子も伝えられた。発生直後から国内はもとより海外からも寄せられた多くの支援が励みになったのかもしれない。そのなかにチャリティとして配信限定で「イン・タイム」を発表したヘイリー・ロレンがいる。「時が経てば回復するわ」という歌詞は心強い。

 2010年にロレンが「青い影」でデビューしたときは衝撃を受けた。ジョン・レノンをして「人生でベスト3に入る曲」とまで言わしめたプロコル・ハルムの大ヒット曲のカバーである。ディスコのチークタイムでこの曲に合わせて彼女を抱きしめた方もいよう。ポップスのジャズアレンジは珍しくないが、そのほとんどはポップスという原曲の枠を超えないまま、伴奏を4ビートにすることでジャズ風に聴かせるスタイルをとっている。曲の作りが違うのだからこの手法に頼らざるを得ないが、ロレンはあたかもジャズの楽曲であるかのように歌う。それは意識してジャジーに表現するというのではなく、ロレンが持つ天性のジャズ感によるものだろう。

 「イン・タイム」を収録した「ハート・ファースト」は、昨年発売された数あるヴォーカル・アルバムのなかでも作品として高い評価を受けたばかりか、録音の素晴らしさからジャズ批評誌のジャズオーディオ大賞の金賞に輝いている。ジャズは良い音で録ることが必ずしもジャズの本質を捉えるとは限らないが、ヴォーカルは息づかいもその表現のひとつとして重視される以上、音は良いほうが伝わるものも大きい。特にロレンのようにハスキーでありながら透明感のある声は音がクリアなほど歌詞の端々に込められたニュアンスや、伴奏者との阿吽の呼吸までもがダイレクトに感じ取れる。

 アルバムトップに収録されている「テイキング・ア・チャンス・オン・ラヴ」に、「Things are mending now, I see a rainbow blending now」という一節があった。大量のがれき処理や、拡散した放射性物質への対応など被災地が抱える課題は山積みしているが、がれきを受け入れる自治体も名乗りを挙げ、徐々にだが物事は良い方向に動き始めている。景観を取り戻した東北にかかる虹を一日でも早く見たい。
コメント (23)
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