デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ウッシッシ、俺はジャズ評論家だったんだよ、はっぱふみふみ

2016-07-31 09:20:52 | Weblog
 今月12日に大橋巨泉さんが亡くなった。「11PM」や「クイズダービー」等のテレビ番組で司会者として活躍された方だ。今年の2月だったか黒柳徹子さんの「徹子の部屋」に奇しくも7月7日に83歳で亡くなった永六輔さんとご一緒に出演されていた。闘病のため少しばかりやつれて見えたが、昔話で盛り上がる声は張りもあり、当時のエピソードを語る口調もしっかりしていただけに残念だ。

 このたびの訃報で巨泉さんがジャズ評論家だったことを知った方もおられるだろう。1960年代は歯に衣着せぬ批評でジャズ誌を賑わしていた。分かりやすい解説も定評があり40年代前半のスウィング末期から50年代のモダン初期に至る過渡期のジャム・セッション形式によるコンボ演奏を「中間派」と名付けのは巨泉さんだ。また。ヴォーカルにも造詣が深く、日本語版ダウン・ビート誌62年2月号では当時の奥様、三宅光子(現・マーサ三宅)さんとご夫婦対談という企画でジューン・クリスティとクリス・コナーを語っていた。ビリー・ホリデイの自伝も油井正一さんと翻訳されている。

 ♪Alone together, beyond the crowd・・・で始まるアーサー・シュワルツとハワード・ディーツの名コンビが書いた「Alone Together」に「ふたりぽっち」という邦題を付けたのも巨泉さんだ。見事なくらいこの邦題がしっくりくる歌詞とメロディーである。多くの名唱からパティー・マクガヴァン唯一のリーダー・アルバム「Wednesday's Child」を選んでみた。消え入るようなフルートにポロンポロンとギターが入るゆったりしたイントロから歌詞をかみしめるように丁寧に歌っている。孤独な二人が一緒にいればこれからの将来、どんなことにも耐えていける・・・大恐慌の風が吹く1932年に作れられた曲ではあるが希望の光がさす。

 ヘレン・メリルの名唱で知られる「You'd Be So Nice To Come Home To」に「帰ってくれたらうれしいわ」という邦題を付けたのも巨泉さんだ。誤訳を指摘する声もあるが、たとえ歌詞の内容と違っていても誰でもが知っている邦題は名訳といえよう。ヘレンのあのジャケットは間違いなくそう歌っているのだから。ジャズをこよなく愛したダンディー大橋巨泉。享年82歳。合掌。
コメント (6)
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